名古屋フィルハーモニー第306回定期演奏会
音楽の万国博シリーズ《蝶々夫人》
   2004年9月20日4PM 愛知芸術劇場大ホール

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◇ 名フィル《蝶々夫人》(04/9/20)

    名古屋フィルハーモニー第306回定期演奏会
      音楽の万国博シリーズ《蝶々夫人》
   2004年9月20日4PM 愛知芸術劇場大ホール

     指 揮:沼尻 竜典(ぬまじりりゅうすけ)
     管弦楽:名古屋フィルハーモニー管弦楽団

       蝶々さん:大岩 千穂
     ピンカートン:ミヒャル・レッホツキー
     シャープレス:直野 資(なおのたすく)
        ゴロー:高橋 淳(たかはしじゅん)

 演奏会形式となっていますが、実際はオケの前で暗譜で演技をするオペラスタイルでした。
 ただし、服装はタキシードとイブニングドレスという演奏会スタイル。
 スポットを当てたり暗くしたり明るくしたり、照明で変化を付けていましたが、演出家の名前は書かれていませんでした。
 合唱は右の後ろに固まっていて、演技をすることはありません。

 大道具は上手に屏風。小道具は一切なし。
 蝶々さんが短刀で自殺しようとするところに子供が飛び出してくる場面など、短刀がないとおかしいんですが、イブニングドレスに短刀を入れるのは難しいわけです。
 衣装くらいは場面に合ったものを着た方がいいのではないか、とは思いました。

 沼尻さんの指揮は本当に素晴らしいもので、カルロス・クライバーの《ラ・ボエーム》を彷彿とさせました。
 このオペラのすべてを理解し、そこまでオケを引っ張っていく力量を持っている。
 近い将来に世界で活躍する人だとは思いますが、名フィルとの共同作業が長く続くことを願わずにはいられません。

 沼尻さんの指揮に応えた名フィルも良かった。
 コンサートマスターの後藤龍伸さんはジェスチャーも大きく、音楽的な動きでオケを引っ張っていました。

 蝶々さんの大岩千穂さんは芯の通った素晴らしい声で、美人だしスタイルもいいし、大変気に入りました。
 ただ劇場最後列の僕としては、演技では蝶々さんの喜びや悲しみを、もっと身体を使って表現してほしかったという思いもあります。
 表情だけでは最後列では分かりにくいから。
 とはいえ、僕は蝶々さんの愚かさに笑ってしまうことも多いんですが、大岩さんの真に迫った歌唱には、何度も泣かされました。

 ピンカートンのレッホツキーはスロヴァキアのテノールですが、いいピンカートンだと思いました。

 直野さんのシャープレスは突っ立ったままで歌う場面が多かった。
 シャープレスと蝶々さんとの二重唱は、かつてジュゼッペ・タッデイで見たことがあり、心から蝶々さんを思いやるその演技にいたく感心したことがあります。
 そういう経験があると、つい較べてしまい、点数も辛くなるわけです。

 演技で素晴らしかったのがゴローの高橋さん。
 他の人が歌っているところでも自由に動き回り、いかにも幇間らしい動きで、オペラらしさが出ていました。
 今回の演技は各人に任されているのでしょうか?

 衣装のことや演技をしない合唱のこともあり、オペラを観たと言うのには抵抗もありますが、希有な音楽体験をさせていただいたことは間違いありません。

 忘れられない場面を挙げれば、1)一幕最後の二重唱からフィナーレにかけての盛り上がり(美しさの極み)、2)軍艦アブラハム・リンカーン号の入港を見て蝶々さんが愛の勝利を歌い上げる場面(本当に気の毒)、3)自決を覚悟した蝶々さんが心配するスズキを下がらせる場面のティンパニーの連打(戦慄しました)。

 いずれにせよ、これだけの素晴らしい公演を名古屋限定で終わらせてしまうとは、あまりにももったいないことです。
 カーテンコールでは、特に沼尻さん、大岩さん、そして名フィルに熱狂的な拍手が送られていました。
 
 
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