《タンホイザーとヴァルトブルクの歌合戦》
新国立劇場 2007年10月24日(水)5:30PM

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    《タンホイザーとヴァルトブルクの歌合戦》
 新国立劇場 2007年10月24日(水)5:30PM

     指揮:フィリップ・オーギャン
     演出:ハンス・ペーター・レーマン

    領主ヘルマン:ハンス・チャマー
    タンホイザー:アルベルト・ボンネマ
    ヴォルフラム:マーティン・ガントナー
    エリーザベト:リカルダ・メルベート
      ヴェーヌス:リンダ・ワトソン

  管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
  合 唱:新国立劇場合唱団

 序曲が始まってすぐ、オーケストラの重みのない音にがっかりしました。
 「東京のオペラの森」の小澤征爾といい、どうもこのオペラにふさわしい指揮者に当たらないようです。
 オーケストラも不揃いが目立ち、「やっつけ仕事かな?」とがっかりしました。

 序曲の途中に、大きなプラスチックの管が10本くらいずつ竹のように束ねられた舞台装置が、煙幕の床から次第に延びてきます。
 ミュージカル《オペラ座の怪人》の燭台が上がってくる場面のようなものですが、ちょっと面白かった。

 続いてバレエとなるのですが、紅白歌合戦のDJOZMAを思わせるような裸もどきのコスチュームですが、ダンサー達が踊るのはクラシックのバレエ。
 特にエロティックな動きがあるわけでもなく、いかにもミスマッチなんですが、考えてみればワーグナーの時代のバレエはこんなものだったのでしょう。
 そのミスマッチさを楽しんできました (^_^) 。

 舞台が始まると、だんだん面白くなってきました。
 特に第一幕後半から。

 舞台装置は前に書いたように、プラスチックの管が束ねられたものが移動するだけで、いかにも安上がりに見えますが、照明を上手く使ってその場その場にふさわしい雰囲気を出していく。
 実に美しかったですね。

 演出はまったく作曲家ワーグナーの意図通りのもので、難しい事を考える必要もなく、ワーグナーの音楽を素直に楽しむ事が出来ます。
 《タンホイザー》は実に美しい音楽にあふれたオペラだと、再認識しました。

 こうなると、エリーザベトの哀れさが、ひときわ胸を打ちます。
 リカルダ・メルベートはバイロイトのエリーザベトだそうですが、容姿も歌も演技も、とっても良かったです。

 第二幕冒頭の『歌の殿堂』の沸き上がるようなオーケストラ(大好き)を伴奏に、恋するタンホイザーに再び会う事が出来る喜びを歌う清らかな乙女。
 彼女が数十分後に悲劇のどん底に突き落とされるのかと思うと、泣けました。

 第二幕のフィナーレ、贖罪のためローマに向かう事になったタンホイザーは、舞台下手にうなだれて座るエリーザベトに「ローマへ!」と歌いますが(これは上手い演出だと思いました)、彼女は彼を見ようともしません。
 そしてタンホイザーは行ってしまう。
 はっと気を取り直し、彼の後を追うエリーザベトの気持ちを思うと、またまた泣けました。

 第三幕、「タンホイザーの贖罪のために自らの死を望む」最後のアリアを歌い終えたエリーザベトは舞台奥へと退場します。
 「ご一緒してはいけませんか?」というヴォルフラムの言葉を、彼女は後ろ向きのまま、肩まで掛けていたショールを頭まで上げる事によって拒否します。
 実に上手い演出だと感服しました。

 タンホイザー役のボンネマも素晴らしかった。
 ルックスは髪のある頃のルネ・コロ、あるいはニール・シコフ?
 張りのある歌声で、最初のヴェーヌスとの二重唱から最後の「ローマ語り」までを歌いきりました。
 カーテンコールの最後に、嬉しそうなほほえみを浮かべ出てきたのが印象的でした。

 ヴォルフラムのガントナーは、バリトンと言うよりは少しテノール気味。
 エリーザベトに対する想いがもう少し出ると良いかと思いました。

 領主ヘルマンのチャマーは声が小さく、領主らしい重厚さに欠けました。

 最後にコーラスが若芽の生えた杖を持って出てきたのにはちょっとアナクロかと笑いましたが、考えてみればこれこそがワーグナー本人が望んだフィナーレなのです。
 素直に神の恩寵に感謝し、タンホイザーのご冥福をお祈りしておきました。

 合唱団は素晴らしかったですね。

 レーマンはバイロイト出身の演出家だそうです。
 バイロイト音楽祭ではおかしな演出が跋扈しているらしいので、今回も覚悟していたのですが、この演出は大変気に入りました。
 日本発の、ワーグナーの意図に沿った演出として、ヨーロッパに売り込んだらよいでしょう。

 初日を見た方と2日目を見た方にお話を聞きましたが、今回の方が歌手もオーケストラも演出も見違えるように良かったそうです。
 僕は最終日には歌手も声を使い果たしているだろうと覚悟していたのですが、思いも掛けぬ嬉しい結果となりました。

 第一幕で気が付けば、3階最後列の僕の後ろに10人くらいの人が立っていました。
 遅刻した人を途中から入れているわけで、たいへん良い事かと思います。



 事前に劇場に問い合わせたところ、終演は9時25分とのこと。
 品川発10時07分の最終の新幹線に間に合うには、9時27分初台発の京王新線に乗らなくてはなりません。
 この時点で僕は新幹線を諦め夜行バスを予約しました。

 「ローマ語り」の途中で、3階最前列の男性が突然立ち上がり、出て行きました。
 9時15分でした。
 この時間に劇場を出なくては、新幹線に間に合わないのです。
 ギリギリまで粘った彼の無念さはよく分かります。

 終演は9時35分、カーテンコールが終わったのは9時45分でした。
 11時20分の夜行バスで帰ってきて、朝から仕事をしましたが、体調不良です。
 もう、無理が効く年でもありません (^_^ゞ。

 東京の皆さまには10分、20分は大したことではないのでしょう。
 しかし、地方のオペラファンにとっては大問題なのです。
 新宿から東京駅は遠いのですから、9時を終演時間とする思いやりが、劇場にあればと思います。
 
 
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