ピエトロ・マスカーニ作曲 《イリス》 全3幕
2008年12月6日(日)6:00PM 東京芸術劇場大ホール

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 マスカーニの《イリス》はかつてテレビで一部分を見たことがあり、おかしな作品だと思っておりました。
 井上道義さんの演出は1996年9月に京都でコルンゴルドの《死の都》を見たことがあり、感心しませんでした。
 それなのにこの公演に遠征したのは久しぶりのアンナ・クオさんを見るため。

 彼女のデビューは1999年の名古屋音楽祭オープニンブ・ガラコンサートだったんですが、20歳の彼女のなんと素晴らしかったことか。
 それ以来注目していたのですが、最近は活動も少ないようで残念に思っておりました。
 そのクオさんの声を聞ける機会がやっとやって来たのです

 ところが、会場のロビーに一枚の薄っぺらな掲示がありまして、『イリス役で出演を予定しておりましたアンナ・クオは新聞、雑誌紙上で告知しましたが、急病により一ヶ月間の安静が必要なため、代わりましてミナ・タスカ・ヤマザキが出演いたします』と書かれているではありませんか (@o@)。

 新聞、雑誌なんて知りませんよ。
 何のために東京まで来たのやら、しばしショックで立ち直れませんでした (^_^; 。 

  ピエトロ・マスカーニ作曲 《イリス》全3幕
 セミステージ方式/イタリア語上演/日本語字幕

    2008年12月6日(日)6:00PM
      東京芸術劇場大ホール

       指揮・演出:井上道義

     イリス:ミナ・タスカ・ヤマザキ
     大阪(放蕩者):高橋 淳
     京都(女衒):大島幾雄
     チェーコ(イリスの父):ジョン・ハオ
     ディーア(人形):國友ともこ
     乞食:鈴木寛一
     芸者:小林沙羅

     管弦楽:読売日本交響楽団
     合 唱:武蔵野音楽大学

 盲目の父親と暮らす娘イリス(西洋アヤメ)は人さらいに攫われて吉原に来る。
 彼女は放蕩者の大阪を退けるが、父親に叱責されてトスカのように飛び降りる。
 ここで終わりかと思ったのですが、第三幕がありまして、これが黄泉の世界。
 驚きました。

 第一幕の冒頭部分、『太陽賛歌』の場面で私服のコーラスがぞろぞろ現れ、一緒に手を上げたり下げたりしながら歌います。
 この時点で「井上さんの演出は《死の都》の頃から変わっていないな」と演出については諦めました。

 イリス役のヤマザキさんは善戦していましたが、声量が少し不足していたでしょうか。
 僕は舞台から飛んでくる声に圧倒されたいんですが、大阪役の高橋さん共々、こちらから聞きに行かないと聞き取りにくいところがありました。

 京都の大島さん、チェーコのハオさんの声に不満はありません。
 芸者役でワンフレーズだけ歌った小林沙羅さん(東京芸大修士課程)は将来が楽しみなソプラノかと思いました。

 第三幕のフィナーレ、黄泉の世界で座りながら歌っているイリスの背中に紫色の羽根が生えてきました (@o@)。
 そして彼女が立ち上がるとお腹に同じ色のエプロンがかかっています。
 ちょっと唖然としたけれど、イリス自身がアヤメに変貌したんですね。

 東京二期会《ダフネ》で演出の大島早紀子さんはダフネが月桂樹になる『ダフネの変容』の場面をダンスで逃げてしまいました。
 それに井上さんは正面から取り組んだわけで、その気概は良しとしましょう。
 珍しいものを見せていただきました (^_^) 。

 ストーリーがおかしいので舞台に感情移入できなかった面はあるのですが、後から思い返すとマスカーニのメロディーは魅力的な部分もあったような気がしてきました。

 プログラムの井上さんの言葉によれば、僕がテレビで見たのは23年前の藤原歌劇団と二期会が合同で上演した日本初演の舞台だったようです。
 演出は故・粟國安彦さん、そして指揮は井上道義さんだったそうです。

 今回の再演は井上さんの長年にわたる働きかけによるものだそうで、井上さんを始めとする関係者の御努力に感謝させていただきます。
 カーテンコールの井上さんは本当に嬉しそうでした (^_^) 。
 
 
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