ウィーン国立歌劇場《ワルキューレ》全3幕
 2016年11月9日(水)3:00PM 東京文化会館大ホール

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 ウィーン国立歌劇場《ワルキューレ》全3幕
 2016年11月9日(水)3:00PM
 東京文化会館大ホール

 指揮:アダム・フィッシャー
 演出:スヴェン=エリック・ベヒトルフ

 ジークムント:クリストファー・ヴェントリス
 フンディング:アイン・アンガー
 ヴォータン:トマス・コニエチュニー
 ジークリンデ:ペトラ・ラング
 ブリュンヒルデ:ニーナ・シュテンメ
 フリッカ:ミヒャエラ・シュースター
 ヘルムヴィーゲ:アレクサンドラ・ロビアンコ
 ゲルヒルデ:キャロライン・ウェンボーン
 オルトリンデ:ヒョナ・コ
 ワルトラウテ:ステファニー・ハウツィール
 ジークルーネ:ウルリケ・ヘルツェル
 グリムゲルデ:スザンナ・サボー
 シュヴェルトライテ:ボンギヴェ・ナカニ
 ロスヴァイセ:モニカ・ボヒネク

 A席:61000円。
 東京文化会館は古い劇場で、椅子も狭くて居住性がよくありません。
 空席も僅かながらありまして、何より嬉しかったのは、隣が空席だったこと (^_^) 。

 速めのテンポでメリハリの付いた序奏が始まり、これは素晴らしい演奏が聴けそうだと期待しました。
 小さなオオカミの画像が舞台を横切ったときには、この演出はダメだと失望しました。

 第1幕の幕が上がるとそこにあるのは大きな机と椅子と、机の真ん中にトネリコの木という必要最低限の舞台装置。
 キャストはいずれも素晴らしい歌唱で、一人一人について書いていられません。
 フィッシャーの指揮は歌手に合わせてオーケストラの音量をコントロールし、盛り上がるところはどこまでも盛り上がるという、さすがはプロの仕事だと感心しました。

 演出で不満を感じたのは、「冬の嵐も去り」の部分で、音楽は明らかに嵐で扉が開いたことを表しているのに、舞台では何も起こらなかったこと。
 今までいろいろな演出を見ていますが、せめて開いた扉から降り注ぐ春の光くらいは出していただきたかったですね。

 フィナーレでは机に上向きに寝転んだジークムントに、やる気満々のジークリンデが跨がりました。
 僕は二重唱のあとで二人が逃げていく演出を見ていたので、パトリス・シェローの演出で、二人が床でゴロゴロ転がっているのに驚いてしまいました。
 そんなことをする暇があったら、早く逃げろよってね。
 しかし考えてみれば、妊娠するチャンスはここしかないんですよ。

 ベヒトルフの演出では、一幕ごとに同じ舞台が使われていました。
 第2幕では、舞台の前半分はヴォータン夫妻の夫婦喧嘩の舞台、後ろ半分はジークムントとフンディングが戦う森になっています。
 これは手抜きかとも思いましたが、面白いアイディアもありました。

 疲れ果てたジークリンデはヴォータンの椅子に倒れ込みました。
 やがて現れたブリュンヒルデは、ジークリンデの下腹部を触りました。
 この触診により、ブリュンヒルデはジークリンデが昨夜男の子を妊娠したことを知ったのですね。
 僕はブリュンヒルデがどうしてジークリンデの妊娠を知っていたのか不思議に思っていましたので、一つのアイディアかと思いました。

 第3幕は、舞台奥に実物大の馬の模型が並んでいました。
 ワルキューレたちは白いドレス、とても「戦さ乙女」には見えませんでした。
 彼女たちは黒の上下の男声を突き飛ばしていました。

 ブリュンヒルデだけは紫のドレス。
 ニーナ・シュテンメという方は初めて拝見しましたが、スレンダーな容姿でワグナー歌手のイメージとは違いましたが、立派な歌唱で驚きました。

 「ヴォータンの別れ」からのフィナーレは盛り上がりました。
 トマス・コニエチュニーのヴォータンはフルオーケストラに対抗していましたし、ヴォータンのソロが終わってからの、フィッシャー指揮するオーケストラは素晴らしかった。
 何度も繰り返す波のようなワーグナーの音楽に痺れてきました。

 フィナーレの炎は馬の模型から始まりました。
 そのために置かれた馬だったのでしょうか。
 新国立劇場の《ワルキューレ》は閉塞された空間でしたが、ウィーンの舞台は開放感があり、その分音楽のスケールが大きく感じられました。

 終演は20時でした。
 公演中にドナルド・トランプ氏がアメリカ大統領に当選していました。
 アメリカ国民はオバマ政治の現状に不満を感じでいるのでしょうか?
 かつては自民党政治に閉塞感を持ち、マスコミに唆された日本国民が、鳩山民主党に投票し、すぐに後悔したことを思い起こします。
 トランプ氏が鳩山氏より有能な人物であることを、祈らずにはいられません。