《トゥーランドット》 大野和士 びわ湖ホール
2019年7月28日(日)2:00PM

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 《トゥーランドット》 びわ湖ホール
 2019年7月28日(日)2:00PM

 指揮 : 大野 和士
 演出 : アレックス・オリエ

 トゥーランドット : ジェニファー・ウィルソン
 カラフ : デヴィッド・ポメロイ
 リュー : 砂川 涼子
 ティムール : 妻屋 秀和
 アルトゥム皇帝 : 持木 弘
 ピン : 森口 賢二
 パン : 秋谷 直之
 ポン : 糸賀 修平
 官吏 : 成田 眞
 ペルシャの王子 : 真野 郁夫
 侍女1 : 黒澤 明子
 侍女2 : 岩本 麻里

 管弦楽 : バルセロナ交響楽団
 合唱 : 新国立劇場合唱団/藤原歌劇団合唱部/びわ湖ホール声楽アンサンブル/大津児童合唱団

 びわ湖ホールに到着して、昨日観劇した人から言われたのは、第2幕カラフがトゥーランドットの一つ目の問いに答えるところで、会場が真っ暗となり、客電が付いた、とのこと。
 トゥーランドット役のテオリンは20分くらい高いゴンドラに取り残されたということ。
 1時間経っても修復できず、結局はゴンドラ無しで上演されたとのこと。

 Yahoo!で検索しますと、次の記事が見つかりました。
 ◇京都新聞
 27日午後3時40分ごろ、大津市打出浜のびわ湖ホールで停電が発生した。約15分後に復旧したが、設備点検のため、大ホールで公演中だったオペラ「トゥーランドット」が約1時間中断した。
 びわ湖ホールなどによると、停電の原因は調査中。周辺の地域で停電は起こっていなかった。停電が発生したのは、全3幕の公演の第2幕。チケット予約システムも一時停止したが午後5時20分までに復旧した。
 「トゥーランドット」は同ホール主催で、東京文化会館などの劇場と連携して展開するオペラプロジェクト。この日は約1600人の観客で満席だった。停電による大きな混乱はなかった。28日の公演は予定通り行う。

 本日になっても舞台の修復が出来ず、ゴンドラ無しの演出になっていました。
 今回の演出の目玉が上下する巨大なゴンドラだったわけで、欠陥商品を値引き無しに見せられたという無念な思いがあります。
 原因不明ということは、8月3日(土)、4日(日)に予定される札幌公演でも同じ事態は起こりうるわけで、出演者の生命に危険を及ぼすような危険な演出は止めてもらいたいものです。

 ということで観劇記です。
 最初に幾千年もの昔に起きたルー・リンの陵辱劇が演じられます。
 これは全く不要、不快です。
 演出のオリエは知らなかったかも知れませんが、観客全員が知っていることですから。

 舞台が上がると舞台の左右に天井まで届く巨大な岩山(?)があり、高い位置まで手すりの付いた階段があります。
 合唱団が出入りし歌うのですが、高所恐怖症の僕には絶対ダメだな。

 色彩は白、グレー、黒の無彩色で、照明は暗く、故障した白黒テレビを見せられているようなフラストレーションがありました。

 第一幕でトゥーランドットが現れないのに、カラフが「おお 神々しいばかりの美しさ!」と歌ったのには驚きました。
 いくら舞台装置に故障があったとはいえ(トゥーランドットはゴンドラの上に出てくるらしい)、最低どこかにトゥーランドットの姿を出すべきだったでしょう。
 ストーリーが繋がらなくて、「カラフ、何言ってるんだ?」と、僕は頭がポカーンとしてしまいました。

 オリエは危険な舞台装置には興味があるが、人間ドラマにはそれほど興味が無いようです。
 例えばリューの死の場面。
 リューはそれほど酷い拷問を受けるわけでは無く、最後のアリアを一段高い舞台の上で、一人だけで歌います。
 リサイタルですね。
 そして最後にスカートの中に隠していたナイフで自殺するわけです。
 《西部の女》のミニーでしょうか。
 リューが自殺に追い込まれる課程の描写が不十分で、これほど泣けない「リューの死」も珍しい。

 ティムールや合唱団が引き上げた後もリューの死体は残されたまま。
 その死体の前で、カラフはトゥーランドットに求愛の歌を歌い続けます。
 ツェムリンスキーの《フィレンツェの悲劇》を思い出させる変態的な場面で、ちょっと気に入りました。

 最後は皆さま御存知のように、トゥーランドットは首を切って自害するのですが、愛の二重唱なのにリューの死体の後でゴソゴソしているなと思っていたら、あれはナイフを探していたんですね。
 自害するなり、カラフを刺し殺すなり、好きにしてちょうだい、という心境です。
 どうでも理屈はつけれるんだから。
 ただ、プッチーニは喜ばないでしょうね。

 それより驚いたのは両脇の階段に並んだ合唱団が、一斉に舞台方向に移動したこと。
 手すりが壊れ、合唱団が転がり落ちるのではないかという恐怖心を感じたフィナーレでした。

 ジェニファー・ウィルソンは金切り声で演技は下手。
 ポメロイはカラフらしくて良かったのでは無いでしょうか。
 砂川さんは演出が気の毒。
 もっと活躍できたでしょうに。
 ピン、パン、ポンは、良かったのでは無いでしょうか。