ハンブルグ国立歌劇場来日公演 《タンホイザー》 1996年5月19日(日)2:00PM 愛知県芸術劇場大ホール |
ハンブルグ国立歌劇場来日公演の初日です。 ロビーで大野和士さんを拝見しました。 《タンホイザー》1996年5月19日(日)2:00PM 愛知県芸術劇場大ホール 指揮:ゲルト・アルブレヒト 演出:ハリー・クップファー タンホイザー:ルネ・コロ エリーザベト:ナディーン・セクンデ ヘルマン:ハラルト・シュタム ヴォルフラム:アンドレアス・シュミット ヴェーヌス:リヴィア・ブダイ 序曲で《巡礼の合唱》が始まると(佐川急便の広告)、それだけで、ジーンと来てしまいます。 でも、このオーケストラは、時々、少しずれたりするようです。 さて、序曲の途中で幕が開くと、舞台中央を頂点とする2枚の黒い巨大な壁がある。 そしてその壁が閉じてきて、その間にタンホイザー(ヘアースタイルからいって、ルネ・コロではない)が挟まれそうになる。 彼は壁の上にはい上がり、壁の上をなおも登り続け、やがて立ち上がり、7〜8メートル下の舞台(左側)に飛び降りる。 そこは愛欲の地ヴェーヌスベルク。 ここの踊りは露出度がすごいから、必ずオペラグラスを持ってくるように、と言われていたものですから、かなり期待していたんですが(^_^;、これがせいぜいトップレス。 本場に較べ、かなりセーブしてきたとのことで、テレビの画面(良く見えなかった)なんか、半分はカットされたということです。 タンホイザーとヴェーヌスの二重唱はベッドの上で歌われるんですが、周囲は黒い壁。 どう見たって、ヴェーヌスベルクには見えません。 むしろ、《ワルキューレ》第一幕のフンディングの家に見えました。 タンホイザーの服装は、白いシャツにチョッキ、黒いズボンということで、どうも、現代的な演出になるようです。 タンホイザーが小さな竪琴のおもちゃを持っているのも、何か寂しい印象です。 やがてタンホイザーはヴェーヌスベルクを去ることになるんですが、すると、右側から壁が開いてきて、やがて舞台は壁の右側に移ります。 ここは、ワルトブルグ城近くの、春の谷間のはずなんですが、何もありません。 黒い壁だけ。 この理由は、休憩時間にプログラムを読んで、やっと分かりました。 壁はベルリンの壁で、ヴェーヌスベルクは西ドイツ、何もないワルトブルグは東ドイツになるんだそうです。 そんなこと舞台だけ見ていても、僕には分かりませんよ。 すると、歌合戦に来る来客たちの軍服や勲章は、東ドイツのものなんでしょうか? お坊さんもいますが、共産主義の東ドイツに宗教なんてあったんでしょうか? いろいろな疑問が頭の中を回ります。 この辺の疑問が解決しないと、僕にはこの演出が納得できません。 確かに東ドイツ側には何もありませんが、西ドイツ側だって、あるのはベッドだけですよ。 せめて、ネオンがキラキラしていれば、納得も出来るんでしょうが‥‥ エリーザベトを歌ったナディーン・セクンデという人はとても良かった。 ルックスもまあまあ、肥満度も許容範囲で、声も良く通る。 愛するタンホイザーがかえってきた喜びを全身で表現した《歌の殿堂》は、《ミス・サイゴン》のキムみたいで、泣かせます。 その彼女に、あんな不幸が襲いかかるなんて‥‥ 第三幕の演出は、比較的オーストドックスなものですが、ヴォルフラムのエリーザベトに対する愛情を、表に出しているようです。 エリーザベトの亡骸が、上手から下手まで通っていったのには、驚きました。 全体を見ての印象なんですが、これは《タンホイザー》を何回も見たことがある人には一風変わって面白い演出なんじゃないでしょうか? ただ、もし僕がハンブルグに住んでいて、こればっかり見せられたのでは、ちょっと困るんじゃないか、という気もします。 大きい壁が動きますから、役者さんには気を付けていただきたいものです。 終演後、開場には熱狂的な『ブラヴォー!』が飛んでいましたが、僕は以前観た、ベルリン国立歌劇場の公演の方が、ずっと感銘深かったですね。 カーテンコールにクップファーは出てきませんでした。 |