ハンブルグ国立歌劇場来日公演 《コジ・ファン・トゥッテ》
1996年5月26日(日)1:00PM 愛知県芸術劇場大ホール

「REVIEW96」に戻る  ホームページへ
 
 
 ハンブルグ国立歌劇場来日公演 《コジ・ファン・トゥッテ》
 1996年5月26日(日)1:00PM 愛知県芸術劇場大ホール

 指揮:ゲルト・アルブレヒト  演出:マルコ・アルトゥーロ・マレリ

 フィオルディリージ:ソイレ・イソコスキ
     ドラベッラ:ニン・リアン
     グリエルモ:アンドレアス・シュミット
    フェルランド:デオン・ファン・デア・ヴェルト
     デスピーナ:ガブリエレ・ロスマニス
 ドン・アルフォンソ:アラン・タイタス

 ダブルキャストの場合、名古屋公演にはトップのメンバーを持ってくるようですね(^_^)。

 ハンブルグ国立歌劇場公演も、いよいよ最後の演目となりました。

 序曲の途中で気が付いたんですが、コントラバスのボーイング(弓の上げ下げ)が合っていない。
 プロのオケがなんということだろう、と思って見ていたんだが、これには事情があった。
 これは、秘密にしておくけれど、次に見る方は、バイオリンの後ろのボーイングが合っていたかどうか、教えて下さい。

 この演目は、プロセニアムで仕切った中に、丸い舞台があって、その周りがカーテンで囲まれている。
 上の席の人はプロセニアムのため、また横の席の人はカーテンのために、かなり舞台が見にくいと思う。
 そういう席を買った人は覚悟して下さい。

 僕はモーツアルトのオペラは好きじゃないんだけれど、《 コシ・ファン・トゥッテ》だけは、好き。
 冗談で始まった『恋人取り替えごっこ』が、抜き差しならない深刻なお話になっていくところに、人間の恐さを感じます。

 演奏はですね、モーツアルトらしい軽やかさ、爽やかさに、いくぶん欠ける面があったと思う。
 重唱なんか、もっと美しい曲なんじゃないだろうか。

  舞台装置は抽象的。
 このオペラは別に抽象的でかまわないんだけれど、3演目ともが抽象的では、ちょっと辛いものがあった。
 ハンブルグの演目ってこんなのばかりなのかな?

 演出ではですね、フィオルディリージは貞操堅固で、ドラベッラはいくぶん軽薄と
いう二人の姉妹の性格の書き分け、が不十分だと思う。
 また、デスピーナの服の方が立派に見えて、女中という感じがしなかった。

 最後は、姉妹がどちらの男性のほうに行くのか、不明のままで終わってしまった。
 このような事態になってしまうと、どのようにまとめあげるか、なかなか難しいと
ころですね。

 僕は、ザルツブルグ音楽祭のハンペの演出が好き。
 名古屋では以前、バイエルン国立歌劇場来日公演(ジャン・カルロ・メノッティ演出)を観たことがあるけれど、これも好きだった。
 今回のは、ちょっと期待はずれでしたね。


《コシ・ファン・トゥッテ》のあらすじ
 舞台はナポリ。
 港の見える美しい館に住むフィオルディリージとドラベッラの姉妹。
 彼女たちには、それぞれグリエルモとフェルランドという恋人がいる。

 この男性2人は、老哲学者ドン・アルフォンソとの賭で、恋人の貞操を試すことになる。
 彼らは兵隊として戦地に行ったことにして、髭を生やしたアルバニア人に変装し、お互いに相手の恋人に言い寄る。

 で、第二幕になる。
 妹のドラベッラの方はちょっと軽い性格で、女中のデスピーナのそそのかしもあって、グリエルモと肉体関係を結んでしまう。
 このオペラが面白くなるのはここからで、グリエルモとフェルランドの戦果の話し合いで、フェルランドはドラベッラの裏切りを知り激怒する。

 一方フィオルディリージは貞操堅固、このままでは危ないと、恋人のいる戦地へ出かけようとする。
 そこへ(ここが僕の一番好きなところなんですが)、フェルランドが現れる。
 彼は彼女をものに出来なければ死ぬ覚悟で彼女に迫り、とうとう、彼女を陥落させてしまう。
 それを隙間から見ていたグリエルモも、恋人の裏切りを目の前にして、もだえ苦しむ。

 そこに現れたドン・アルフォンソが、 『コシ・ファン・トゥッテ』と彼らを諭す。
 これは『女はみんなこうしたもの』という意味で、『女性は貞節を誓いながらもすぐ浮気をしてしまう』という、恐るべき人生の真実を述べているわけだ(^_^;。
 バイエルン国立歌劇場のジャン・カルロ・メノッティの演出では、ここで会場の女性客にライトを当てたりして、面白かった。

 最後の場面は、姉妹とアルバニア人の結婚式。
 そこに戦地から恋人たちが帰ってくるから、大騒ぎ。
 グリエルモとフェルランドは、姉妹をさんざん懲らしめてから、事実を告げる。
 姉妹は深く反省し、恋人たちも彼女たちを許し、めでたしめでたしとなる。

 というのがモーツアルトのエンディングなんですが、しかし、ちょっと考えてみれば、人間そう簡単に元のさやには収まれません。
 今回のハンブルグ国立歌劇場の演出では、真実を告げられた姉妹は逆に立腹し、恋人たちの頬を叩いたりします。
 そして最後は、彼女たちがどちらの恋人のほうに行くか、決まらないまま、幕が下りてしまいます。
 なかなか、彼らの将来は暗いようにも思われますね。

 ちょっとした冗談が取り返しの付かない事態を招き、そこから人生の真実が見えてくるという、この 《コシ・ファン・トゥッテ》はとても良く出来た、怖いオペラだと思います。
 で、僕は大好きなんですよ(^_^)。
 
 
「REVIEW96」に戻る  ホームページへ