黛 敏郎 追悼公演《金閣寺》
1997年11月29日(土)18:00開演
 大阪音楽大学カレッジ・オペラハウス

「REVIEW97」に戻る  ホームページへ
 
 
 本日の名古屋はちょっと出発をためらうほどの大雨だった(実際新幹線が止まったみたいですね (@o@))。
 行きの新幹線で、久しぶりに三島由紀夫を読んで予習。
 キラキラと輝くばかりに修飾された文体は、やはり、ノーベル賞にふさわしい作家だと思われた。

 この雨の中カレッジハウスの前で並ぶのは嫌だなとか、観客の出足に影響するのではないか、などと思っていたんだが、大坂では昼ごろ雨が上がっていたようだ。

 窓口で予約券と引き換えられたのは前から5列目。
 これでは堪らない(僕は前が苦手 (^_^;)と交渉して、2階席を手にすることが出来た。

 『一番目に並んだのに字幕も見えない席(前から2列目らしい)にされたのはけしからん』と怒っている人もいたが、もっともなことだ。
 並んだ順に前の席から配っていたようだが、座席の指定にはもっと細やかな配慮が欲しいものだ。
 5000円のチケット代を払っているんだからね。

        黛 敏郎 追悼公演《金閣寺》
     1997年11月29日(土)18:00開演
     大阪音楽大学カレッジ・オペラハウス

 指揮:岩城 宏之  演出:栗山 昌良  製作:日下部 吉彦

   溝口:井原 秀人    鶴川:安川 佳秀
    父:油井 宏隆     女:坂井 美樹
    母:西垣 千賀子   柏木:西垣 俊朗
  若い男:清水 光彦    娼婦:星野 隆子
   道詮:松下 雅人   有為子:児玉 祐子

   オペラハウス合唱団  オペラハウス管弦楽団


 カレッジ・オペラ・ハウスはこじんまりとしているが、壁の装飾、シャンデリア、馬蹄形の優美な曲線を描く座席など、大変好ましい雰囲気。
 先日の新国立劇場が何の愛想もないバイロイトなら、こちらは王侯貴族向きのクヴィリエ劇場だな(キンキラではないけれど)。
 現代オペラなのに、客席がほぼ満席だったのは嬉しかった。

 開演前にオペラハウス館長の解説があった。
 本来このオペラは金・日の公演を予定していた。
 しかし『金曜日は「題名の無い音楽会」の収録があるので避けてほしい』という黛さんの希望によって、木・土の公演になったという。
 それほどこの公演を楽しみにしていた黛さんなのに、追悼公演になってしまうとは‥‥。

 ドイツ語上演で字幕付き。適切な場面解説も入って、分かりやすかったと思う。
 第1・2幕が続けて90分、休憩が20分で、第3幕が40分。
 終演は8時30分頃であった。

 ご存じのように、このオペラはベルリンドイツオペラの総監督、ルドルフ・ゼルナーによって委嘱されたもので、初演は1976年6月23日。
 ヘンネベルグによる台本は三島由紀夫の原作の解説的な面が強く、あまり上出来とは思えなかった。

 舞台は3分の1づつに分割されているとして、左右に櫓が組んであって、その上に各20人くらいの合唱団(千利休みたいな帽子をかぶっていた)。
 で、中央奥に金閣寺を始めとする映像が表れる仕組み。
 数々のエピソードは主に櫓の下の舞台で演じられる。
 まあ、この台本ではこうするしか仕方が無いんだろう。
 それなりに適切な対処であろうと思われた。
 栗山演出では、名古屋の《カルメル会修道女の対話》がこの様な演出であった。

 ただ、娼婦(妊婦)の腹をアメリカ兵に命令されて踏む場面はおかしかったね。
 特に命令もないのに突然踏みはじめて、アメリカ兵はむしろ妊婦を助けていたものな。
 これでは後の歌詞の内容とも合っていない。

 主人公の溝口は、原作では吃りなんだが、オペラでは右手が不自由という設定になっていた。
 歌わなくてはならないオペラのための止むを得ぬ設定変更かと思ったが、柏木からもらった尺八を吹く場面は変だったな。
 あの手では、尺八が持てないはずだからね。

 あと、坊さんの髪が長いのはおかしいと思った (^_^;。

 黛さんの音楽は、岩城さんもプログラムで書いているように、合唱・オーケストラに聞くべき部分が多かった。
 どうして現代のオペラは、独唱者に美しいメロディーを与えないのであろうか?

 岩城さんの指揮は完全に手の内に入ったもので、素晴らしいと思った。
 溝口役の井原さんを始めとする独唱陣は大健闘。
 溝口って出番が多くて大変。
 カーテンコールで盛大な拍手を受たのも当然だろう。
 一方、このオペラは女声独唱の出番が、気の毒なほど少ない。

 ラストシーンは原作では昭和25年7月2日なんだが、今回の公演では冬に設定されていたのであろう、雪が降っていた。
 栗山さんお得意の紙吹雪だな。
 名古屋の《トゥーランドット》ほど多くはなかったけれど。

 ということで、今回の公演は珍しい《金閣寺》の上演としては、演奏・演出いずれも十二分に満足できるものでした。
 岩城さんが『つくづく今回の公演を黛さんに見てほしかった。くやしい』とプログラムに書いておられるるのももっともです。
 本当に残念なことでした。

 この公演は関西のオペラには珍しく(初めて?)NHKが録画をしていて、黛さんの命日(4月10日)に近い4月5日 0:30PMに BSで放送されるそうですので、ぜひ見て下さい。

 しかし今日の大坂は暑かった。
 走ったせいもあるけれど、帰りの新大阪のホームなんか半袖だよ。
 もうすぐ12月だというのに。
 
 
「REVIEW97」に戻る  ホームページへ