ロンドン・オペラとミュージカルの旅
13) ROH 《ビッリー・バッド》
 95年6月5日(月)

前へ  ホームページ  ロンドンの目次  次へ
 

◇ 6月5日(月)の5

 Conductor:Robert Spano  Director:Francesca Zambello

『プロローグ』
 舞台は全体が大きな正方形を45゜回した型で、先端の角は少しオーケストラピットの上まで被さっている。
 そして、全体にかなり急な傾斜が付いている。

 『I′m an old man』で始まるプロローグでは、年老いたヴェア船長(Graham Clark)が昔を思い出し、後悔している。
 ヴェア船長がガウンを脱ぐと下は軍服で、場面は第1幕に入る。

『第1幕』
 場面は1797年(フランス革命の頃)のイギリス軍艦「INDOMITABLE(不屈)号」の艦上。
 当時イギリスは革命フランス軍と戦闘状態にあった。
 士官たちは革命思想を恐れ、「MUTINY(反乱)」という言葉が不安げに舞台にこだまする。

 そこに商船「RIGHTS O′MAN(人権)号」から3人が新たに軍艦に徴用される。
 その一人が、HANDSOME AND STRONG MANのビリー・バッド(Rodney Gilfry)。
 彼の欠点は興奮すると言葉が詰まってしまうこと。
 やがてこれが彼の命取りになる。

 彼はFORETOP(前方の見張りか?) を志願し、乗ってきた商船に別れを告げる歌を歌う。
 この商船の名前「RIGHTS O′MAN(人権)」という言葉を聞いた士官たちは「MUTINY」の危険を感じる。
 乗っていた船の名前のせいで、ビリーの立場は悪くなってしまうわけだ。

 ビリーはみんなに好かれるが、邪悪な上官クラッガート(John Tomlison)はビリーを陥れ、葬り去ることを誓う。
 なぜクラッガートがビリーにこのような感情を持つのかよく分からないんだけれど、正義と悪の対立ということらしい。

 甲板での格闘のシーンなんかもあるんだけれど、前にも書いたように、舞台の先端は直角で、オーケストラピットの上まで被さっていて、全体にかなり急な傾斜が付いているため、物や人がオーケストラに落ちるのではないか、と心配になってしまう。
 一番問題なのは何のためにこんな危険な舞台を造ったのか、その理由が分からない
ことだ。
 不必要に出演者を危険にさらしているような気がする。

 休憩時間はロビーに行ってみた。
 さすがに正装した人が多い。
 が、ロビーは狭くて、シャンパンやワインを持った人とぶつかりそうで危ないので、早々に座席に戻る。
 ここでびっくりしたのは、売り子が場内でアイスクリームを売っていること。
 ミュージカルならいざ知らず、ロイヤル・オペラハウスだよ。

『第2幕』
 第2幕の最初はフランスの軍艦との戦闘が迫り興奮する水兵たちの合唱(フランス軍艦はやがて見えなくなってしまうんだけれど)。
 この時やっと舞台が動き始め、先端がどんどん上に上がり、最後は少し上向きに止まる。
 そして、上の甲板と下の船倉とで前を向いて大合唱が歌われる(これは壮大な曲)。
 見た目には大変かっこいい場面だ。

 しかしながら、甲板の先端には支持装置がない。
 つまり、てこの原理で上がっているわけで、こんなに沢山の人が先端の作用点に乗ったら壊れて、下の人がつぶされてしまうのではないかと心配になる。

 そしていよいよ邪悪な上官クラッガートは、ヴェア船長にビリーを反乱の首謀者として訴える。
 「MUTINY」という言葉に動揺するヴェア船長。
 しかしヴェア船長はビリーにそのような疑いがないことを信じている。

 敬愛するヴェア船長に呼ばれたビリーは喜んで船長室にやってくる。
 そこで思いもかけぬ告発にあったビリーは興奮して言葉が詰まってしまう。
 「釈明するように」というヴェア船長の言葉にも応えられず、思いあまったビリーはクラッガートに殴りかかり、彼は打ち所が悪く死んでしまう。

 そこで3人の上官が呼ばれ、ビリーの裁判が行われる。
 ビリーは「 Save me ! 」とヴェア船長に助けを求めるが、船長は冷たく事実だけを述べる。
 この裁判の間、クラッガートの死体は布を掛けたままその場に放置してある。
 早く片づけてあげればいいのに、身動きがとれず苦しいだろう、と同情してしまう。

 裁判の結果、海軍の法律どおり、ビリーは絞首刑と決まる。
 牢屋(何故かしら甲板にある)に収容されたビリーが歌う辞世の歌は心にしみる。

 甲板に船員たちが集まり、いよいよビリーの処刑の場面だ。
 マストも無いのに、天井からロープが降りてくる(こういうところがいい加減で気に入らない)。
 そして、後ろ手に縛られたビリーの首にロープが掛けられ、船員たちがビリーを戸板に乗せて持ち上げる。
 そして、上官の合図で船員たちが戸板を落とすと‥‥ビリーが吊るされちゃったの(@o@)。

 驚いたのなんのって。

 そしてビリーの体は上へ引き上げられて、舞台中央の天井でゆっくり回転している。
 《ピーター・パン》のフライングじゃ無いんだから、もし間違えて本当に首を吊っちゃったり、ロープが切れて落っこっちゃったりしたらどうするんだろう。
 怒った水兵たちが士官に詰め寄る場面や、ヴェア船長の後悔の「エピローグ」の間も、ビリーは天井で回っていて、心配で舞台に集中できない。

 この舞台は『ローレンス・オリビエ賞・新作オペラ作品賞』を獲ったそうだが、人命軽視の演出は大変不愉快だった。
 Francesca Zambello という女流演出家は、平成11年に松本で《カルメル会修道女の対話》を演出しているが、好感は持てない。

 演出に不満はあったものの、この《ビリー・バッド》というオペラは、真剣な内容を持ち、音楽的にも充実したオペラだ。
 カーテンコールで数えると、必要な男性独唱者は14人、それと大勢の男性合唱。
 堂々たるグランドオペラだ。

 その後指揮者ゲオルグ・ショルティ自伝を読んだが、「ブリテンの最高傑作は《ビッリー・バッド》」と書かれていて、大いに同感した。
 

前へ  ホームページ  ロンドンの目次  次へ