《エリザベート》とスイスの旅 1996年8月12日の2
 《マルタン・ゲール》 T

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 僕が一番好きなミュージカルは《ミス・サイゴン》、そして2番目が《レ・ミゼラブル》。
 となれば、アラン・ブーブリル(作詞)とクロード・ミシェル・シェーンベルク(作曲)の話題の新作《マルタン・ゲール》はどうしても見ておきたいわけだ。
 新作ミュージカルを見るためにロンドンまで行くなんて、僕の病も、大分重くなったものです(^_^;。

 プリンス・エドワード劇場へは、地下鉄レスター・スクエアの駅からパレス劇場の前を過ぎて行く。
 大通りを曲がると、アダルト・ショップが多くなり、ライブショウの客寄せのための、下着姿のお姉さんなんかもガラス窓に立っていて、なかなか楽しそうな雰囲気だ(^_^;。

 劇場で一番驚いたのは客の入りが悪いこと。
 1階、2階は入っているようですが、僕の居た3階なんか3割くらいの入りで、これがブーブリル&シェーンベルクの黄金コンビの新作とは信じられない思いだ。

 プログラムには次のようなことが書いてあると思うんだが、自分の翻訳能力にはあまり自信が無いので、間違いがあったらご容赦下さい<(_._)>。

 1560年、トゥールーズの裁判所に奇妙な訴訟が起こされた。
 ピレネー山麓の小村 Artigat に住む、Bertrande de Rols が、自分が3年間一緒に暮らしていた夫 Martin Guerre が、実は偽物だというのだ。
 彼女の夫は12年前に彼女を残して去り、そして彼に似た男が戻ってきた。
 そして3年の後、彼女は彼が本当は60マイル離れたGascon 村のArnaud du Thil だったと訴えたのだ。

 しかし、夫は Martin Guerre のことを、子供の頃のことまで詳しく覚えており、Bertrande が強欲な叔父の Pierre の強制によって、彼を訴えたのだと弁護した。
 法廷が、被告人を本物の Martin Guerre だと宣言しようとしたその時、本物のMartin Guerre がスペインとの戦争から戻ってきた。
 そして、Arnaud du Thil は火刑に処せられた。

 この裁判の判事だった Jean de Coras はこの顛末を本として出版し、それはベストセラーとなった。
 法律上の問題として、なぜ Arnaud が Martin の過去を知っていたのかというミステリーとして、人間のアイデンティティーの証明の問題として、このストーリーはいろいろな角度から、何度も取り上げられた。
 17世紀にはヨーロッパ全体に、18世紀にはロシアとアメリカに広まり、ナポレオン時代のフランスでは3幕の舞台となった。
 1982年には Gerard Depardieu 主演のフランス映画《The Return of Martin Guerre 》が作成され、そして1993年にはリチャード・ギアとジョディ・フォスター主演のアメリカ映画《ジャック・サマスビー》が作成された。

 1990年のブロードウェイ、《ミス・サイゴン》のファイナルリハーサルに立ち会っていたアラン・ブーブリル(以後AB)とクロード・ミシェル・シェーンベルク(以後CMS)は次の作品について話し合いをした。
 彼らの口から出たのは、期せずして同じ名前、《マルタン・ゲール》。
 この場合彼らの頭にあったのはフランス映画《The Return of Martin Guerre》だったようだ。

 彼らはさっそく製作に取りかかった。
 リヨンに行き、国立図書館にある Jean de Coras の原本を読んだりもした。
 彼らの作成したデモテープ(フランス語で、主にCMSが歌っている)が、キャメロン・マッキントッシュの元に届いたのは1992年だった。
 そのテープを熱心に聴いたマッキントッシュは、大変に失望した。
 彼はそのストーリーのどこが面白いのか理解できなかった。
 マッキントッシュは、自分は気乗りがしないからこれは他のプロデューサーでやってくれるようにと彼らに告げた。
 ABとCMSは当然、大いに失望した。
 マッキントッシュにニコラス・ハイトナー(《ミス・サイゴン》の演出家)に相談するよう言われた彼らは、ハイトナーから『これは自分には合わないが、素晴らしい作品になるから頑張るように』とのコメントをもらい、大いに励まされた。

 1993年3月にマッキントッシュの家で行われたミーティングで、マッキントッシュの意見が述べられた。
 マッキントッシュの発案で、宗教戦争が取り入れられることになり(《ミス・サイゴン》のベトナム戦争のマネだな)、時代が1世紀下げられた。
 また、Bertrande が、帰ってきた Martin Guerre を、すぐに別人だと知ることにした。
 

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