メットライブビューイング プッチーニ作曲《蝶々夫人》
2009年3月29日(日)10:00AM ミッドランドスクエアシネマ

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 メータが紫禁城で《トゥーランドット》を上演したときのドキュメントを見ていたら、ガラルド・ドマスが櫛(短刀)の持ち方について、監督のチャン・イーモウに質問していました。

 チャン・イーモウの答えは「そんなことはどうでもいいから、大きい声で圧倒しろ」。
 それ以来、演技をいつも考えているドマスと、演出はどうでもいい演出家のチャン・イーモウ、という固定観念が、僕の頭の中に出来てしまいました。

 今回はそのドマスの蝶々さんを見ることが出来るのです。
 どんな蝶々さんを演じてくれるのか、胸をワクワクさせて出かけたのですが、現れた蝶々さんはどう見てもドマスではありませんでした (@o@)。

 入場時に渡されたチラシを見直すと、「当初予定されておりました蝶々さん役クリスティーナ・ガリャルド=ドマスは体調不良のため降板、パトリシア・ラセットが代役を務めます」と書かれていて、ちょっと残念です。

   メットライブビューイング2008-2009
     プッチーニ作曲《蝶々夫人》
    2009年3月29日(日)10:00AM
      ミッドランドスクエアシネマ

   指 揮:パトリック・サマーズ
   演 出:アンソニー・ミンゲラ

   蝶々さん:パトリシア・ラセット
   スズキ:マリア・ジフチャック
   ピンカートン:マルチェッロ・ジョルダーニ
   シャープレス:ドゥウェイン・クロフト
   坊や/人形:ブラインド・サミット・シアター


 まずはアンソニー・ミンゲラの演出が素晴らしい。
 ミンゲラは1996年公開の『イングリッシュ・ペイシェント』でアカデミー監督賞を受賞。
 2008年3月18日に、54歳で急死しました。

 2006~2007年のシーズン開幕を飾ったこのプロダクション。
 舞台奥に横いっぱいの階段、そして障子だけ。
 あとは提灯などの小道具や照明で見事に新しい《蝶々夫人》の世界を作り上げた、驚嘆すべき天才の遺産です。

 ハン・フェン(ミンゲラの妻)による衣装は、アジア人には西欧的に見え、欧米人には東洋的に感じられる世界を狙ったそうで、女性コーラスの鬘と着物がミスマッチなのが笑えてしまいます (^_^) 。
 ゴローは神主風、ヤマドリは流鏑馬でした。
 ボンゾを思い出すことが出来ないのが残念です (^_^; 。

 代役の蝶々さん、パトリシア・ラセットという人が素晴らしかった。
 第二幕なんか、案内役のルネ・フレミングが「控え室でモニターを見て、みんな泣いたわよ。どうすればあんな演技が出来るの!!」と叫んだほどの出来栄えで、僕も泣けて泣けて (^_^ゞ。

 全く知らない名前だったのでインターネットで検索してみると、サイトウキネンオーケストラ《カルメル会修道女の対話》でブランシュを歌ったようです。
 僕もメットライブビューイング《ピーター・グライムズ》で彼女を見ているようです (^_^ゞ。

 肥満体でちょっとふて腐れたような、それでいて蝶々さんのことを思いやっている、マリア・ジフチャックのスズキが、これもまた素晴らしかった。
 インタビューによれば「単なる奉公人ではなく、3年を共にした仲間意識を持った役作り」だそうです。

 今回あらためて分かったのは『ある晴れた日に』はスズキに向かって歌っている歌で、二人の心のやりとりがとても重要な歌なのだということ。
 「お金が無くなったけれどどうするのよ」と財布を突きつけていたスズキが、アリアの後奏で蝶々さんの妄想を「そうですとも、そうですとも」と優しく受け入れる場面など、書きながら涙が出てきます (^_^ゞ。
 
 帰宅してから東京二期会の映像を見てみました。
 木下美穂子さんはまっすぐ前を向いて歌い、スズキを振り返ることもありません。
 これでは木下さんのリサイタルで、スズキ役の永井和子さんも演技のしようがないではありませんか。
 歌詞に合わせてうなずいたりするスズキの演技が痛ましかったです。

 METに戻って、子役を演じているのは3人の黒子に操られる文楽人形。
 ハン・フェンのインタビューによれば、「子供の動きを心配せずに歌手が歌えるから」という事でした。

 金髪、青い目である蝶々さんの子供が、禿頭で黒い目の人形になっていたのは納得できなかったけれど、この文楽人形が表情豊かで、蝶々さんに寄り添い、また泣かされました。

 ハミングコーラスで3人は客席に向かって座り (@o@)、子供が眠くなって蝶々さんの膝の上で眠り、スズキもウトウトしてしまうなど、実に発想が新鮮です。

 ピンカートンのジョルダーニは、インタビューはかすれ声でしたが、舞台では頑張っていました。
 蝶々さんの服を脱がせながら歌う二重唱が良かったですね。

 クロフトのシャープレスは誠実な人柄で、これも泣ける要因です。
 ゴロー、ボンゾ、ヤマドリ(アジア人)、いずれも立派な歌唱で、弱いなと思ったのはケートくらいでしょうか。

 いずれにせよ、このプロダクションは絶対のお薦めです。
 TV放映されたら必ずエア・チェックして下さい。
 DVDが発売されたら購入して下さい。

 ズブズブに泣けること、保証します (^_^) 。
 
 
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