マキシム・ヴェンゲーロフの引退
ロンドンタイムズの記事(2008年4月5日)

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 ネットサーフィンをしておりましたら、昨年の日本公演を肩の故障でキャンセルしたマキシム・ヴェンゲーロフ(1974年8月20日~ )が、肩痛のために引退するというタイムズ(2008.4.5)のショッキングな記事に行き当たり、仰天しました。
 http://entertainment.timesonline.co.uk/tol/arts_and_entertainment/music/article3666430.ece

 4月5日のニュースだから、大分遅れていますね (^_^ゞ。

 僕が最初にヴェンゲーロフを聴いたのは、1988年4月の名古屋市民会館でした。

 エフゲニー・キーシン(1971年10月10日~)とのコンチェルトの夕べで、後ろで指揮をする髪の薄い貧相な指揮者がワレリー・ゲルギエフ(1953年5月2日~)。 オーケストラは名古屋フィルハーモニー交響楽団でした。

 僕は1986年10月17日(金)に東京で聴いた、15歳になったばかりのキーシンの演奏に驚愕したのですが、そのキーシンが名古屋まで来てくれるというので、このコンサートに飛んでいったのでした。
 彼が演奏したのはラフマニノフの『ピアノ協奏曲第2番』でした。

 しかし、その日僕がキーシン以上に驚愕したのは、パガニーニの『ヴァイオリン協奏曲第1番』を弾いた13歳のヴェンゲーロフでした。
 髪を長く伸ばした女の子みたいな子供なのに、技術的にも音楽的にも非の打ち所のない演奏で、「神様から才能を与えられた神童って、キーシンだけではないのだ」との感を強く持ちました。

 そのヴェンゲーロフが肩を壊して引退してしまうというのです。
 人類の至宝の喪失です。
 33歳って、昨日聴いたジョセフ・リンと変わらない年齢ではありませんか!
 ジャクリーヌ・デュプレ(1945年1月26日~1987年10月19日)の悲劇を思い出してしまいます。

 最近の彼の演奏で僕が最も感心したのは、右手に持つ弓の強い圧力。
 ふつう弓で弦を強く圧迫すると、ギーギーと雑音が出てしまうのですが、ヴェンゲーロフの場合はそれが深い音となって出てくるのです。

 「そんなに圧力をかけては楽器が壊れるのではないか?」と心配したものですが、その前に彼の肩が壊れてしまったとは。

 それよりもなによりも、もうヴェンゲーロフの演奏を聴くことが出来ないとは。
 記事によれば、今後は教育活動と指揮にとりあえず専念するそうです。
 まだ若いので復活の日はあるかもしれませんが、今までの演奏レベルが保てるのでしょうか?

 『ヴァイオリニスト大島莉紗~パリ・オペラ座からの便り~』によれば、ヴェンゲーロフのステージ料は世界最高の500万円だったそうです。

 五嶋みどりは拒食症になってしまったし、キーシンも、あのような分厚いタッチで命を削るような演奏をしていては、手を壊すのではないかと、驚嘆した神童たちが心配になってきました。
 
 
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