ミュージカル 《グランドホテル》
2016年4月27日(水)7:00PM 愛知県芸術劇場大ホール

「REVIEW16」に戻る  ホームページへ
 
 
 ミュージカル《グランドホテル》
 2016年4月27日(水)7:00PM
 愛知県芸術劇場大ホール

 作詞・作曲:ロバート・&ジョージ・フォレストライト
 追加作詞・作曲:モーリー・イェストン
 演出:トム・サザーランド
 振付:リー:プラウド

 【登場人物】Wikipedia

・オットー・クリンゲライン(重い病を患っている会計士)
 :中川晃教
・フェリックス・フォン・ガイゲルン男爵(多額の借金を抱えている男爵)
 :宮原浩暢
・エリザベータ・グルシンツカヤ(ロシア人のバレリーナ。引退興行のためにベルリンに来た)
 :安寿ミラ
・ヘルマン・プライジング(アメリカ人実業家。織物工場の娘婿で社長)
 :戸井勝海
・フリーダ・フラムシェン(タイピスト。ハリウッドスターを夢見ている)
 :昆夏美
・ラファエラ(グルシンツカヤの付き人)
 :樹里咲穂
・エリック(ホテルのフロント係)
 :藤岡正明
・オッテルンシュラーグ(義足の医師)
 :光枝明彦
・スペシャルダンサー(死)
 :湖月わたる

 ミュージカル《グランドホテル》を初めて見たのは1990年のTV『トニー賞受賞式』。
 オットー・クリンゲライン役のマイケル・ジェッターが演じた、ポール一本の超絶的なダンスには「アメリカには凄い役者がいるものだ」と驚いたものです。
 彼はこの役でトニー賞助演男優賞を獲得したわけですが、アルコール中毒、AIDSなどと言われ、2003年にハリウッドの自宅で死去しました。50歳でした。

 トミー・チューンがトニー賞演出賞と振付賞を獲得しましたが、この年の作品賞に選ばれたのは《シティ・オブ・エンジェルス》でした。

 僕は中川晃教さんがあのポールダンスを踊れるのか、興味を持って出かけたのですが、演出・振付がトミー・チューンでは無い別人のバージョンで、ポールダンスはありませんでした。
 肩すかしを食った感じですね。

 Wikipediaによれば、映画『グランド・ホテル』は1932年、メトロ・ゴールドウィン・メイヤー製作の映画作品で、第5回アカデミー賞最優秀作品賞を受賞しました。
 MGMのオールスター・キャストとして作られたこの作品は、ヴィッキイ・バウムの小説から作られた舞台劇を基にして、ウィリアム・ドレイクがアメリカ的な舞台劇にアレンジしたものが土台になっている。
 さまざまな人物が1つの舞台に集いあい、それぞれの人生模様が同時進行で繰り広げられていくという、当時としては斬新なストーリー展開(グランド・ホテル形式)が大ヒットを呼んだ。

 場所はベルリンでも超一流の「グランド・ホテル」。人気バレリーナだったがいまは落ち目のグルシンスカヤ(グレタ・ガルボ)、大企業の社長だが、会社が危機に瀕し、合併工作を図っている最中のプライシング(ウォレス・ビアリー)とたまたま彼に雇われた秘書フレムヘン(ジョーン・クロフォード)、借金で首が回らなくなっている自称「男爵」のフォン・ガイゲルン(ジョン・バリモア)、プライシングの会社の経理係だったがクビになり、一生の思い出作りにとこのホテルに泊まりに来た老人クリンゲライン(ライオネル・バリモア)といった客が様々に交錯する。

 フォン・ガイゲルン男爵はグルシンスカヤの宝石を盗もうと彼女の留守をねらうが、本気で彼女を愛してしまい宝石を盗めず、一緒に旅立とうと彼女に約束したものの、金がほしいのでプライシングの部屋に忍び込んだところを発見されて、格闘の末射殺されてしまう。
 一方フレムヘンはクリンゲラインとお互いに新しい人生を生きようとパリに向かい、男爵の愛を得て生き生きと甦ったグルシンスカヤは(男爵が殺されたことを知らず)彼との待ち合わせの駅へとさっそうたる足どりでホテルを出て行く。

 プログラムによれば、
 《グランドホテル》のミュージカル化は、ヴイッキー・バウムの小説を原作に、ロバートライト&ジョージ・フォレストの作詞・作曲に加え、モーリー・イェストンが追加作詞・作曲で参加。
 トミー・チューンの演出・振付により、1989年にブロードウェイで初演され、11017回の上演を重ねた大ヒットミュージカルです。

 今回の公演は、ミュージカル《タイタニック》で大絶賛を浴びた英国気鋭の演出家トム・サザーランド氏の演出。
 2016年に「オフ・ウエストエンド・シアター・アワード」で、最優秀ミュージカル作品賞と最優秀振付賞を受賞した自身の作品をベースに「GREEN」と「RED」で異なる演出・振付により、全く別の結末に導くという革新的な試みを加えた、新たな作品となっています。

※結局オフ止まりでウエストエンドに上がれなかったプロダクションであり、興行的には失敗した作品なのではないかと推察しました。

 トミー・チューン演出の来日公演は(1991年・名鉄ホール)は見たはずですが、オットー・クリンゲラインのダンスが期待外れだったような記憶があります。
 なかなかマイケル・ジェッターのようには行きませんよね。
 ベルリンのグランドホテルには1999年5月に行ったことがあります。

 会場の愛知県芸術劇場大ホールは巨大ホールで、5階席は閉めていましたが、客席の入りは半分くらい。
 そのため残響が凄い状態になっていました。
 多くの人物が登場する「グランドホテル形式」であり、舞台のあちこちでストーリーが進行するのに、それぞれのセリフがまったく聴き取れず、誰がどこで何をしているのか分からない状態。
 帰宅して、映画『グランド・ホテル』のWikipediaを読んで、やっと自分が見てきた舞台が分かった状態です。
 エリック(ホテルのフロント係)は子供が生まれるらしいんですが、舞台前方で演じても早口でセリフが聴き取れません。
 藤岡正明さんのようなベテランでもこのような状態になってしまうのかと気の毒に思いましたが、会場の状態に応じたセリフの早さとといった柔軟な対応が望まれました。

※グランドホテル形式(Wikipedia)
 グランドホテル形式は、映画や小説、演劇における表現技法のことで、「ホテルのような一つの大きな場所に様々な人間模様を持った人々が集まって、そこから物語が展開する」という方式のことである。映画『グランド・ホテル』によって効果的に使用されたため、この名が付いている。

 グランドホテル形式で多くの役者が登場しますが、一番出演時間が長く、長いソロ(&二重唱)があるのが、エリザベータ・グルシンツカヤとフェリックス・フォン・ガイゲルン男爵とでした。
 映画ではグレタ・ガルボが演じたグルシンツカヤが主役なのでしょう。

 ガイゲルン男爵役の宮原浩暢(みやはらひろのぶ)さんという方は初めて拝見しましたが、演技も歌も素晴らしく、長身で舞台映えがしました。
 結婚詐欺師はこのように中年女性にアタックするのか、というお手本を見せていただいた感じ。
 プログラムを見ると、高校時代は水泳一筋、オリンピックを諦めて東京芸術大学声楽科に進み、同大学院を卒業。
 ミュージカルは今回が初めてという大型新人ですが、その存在感と年齢のギャップに、これからの道が予測できません。
 さしあたりクリスとかジョン(ミス・サイゴン)? ジャベールには若すぎる? ファントムは劇団四季だし‥‥。

 2時間の舞台が休憩無しで上演され、終わるのかな?と思っているとまた別の人物が現れて、物語の着地点が見えず、イライラしました。
 フィナーレには2つのバージョンがあり、「RED」は原作通りの終わり方。
 僕が見た「GREEN」は演出家のアイディアだそうで、ヒトラー(たぶん)の演説が長々と流され、「小賢しい、うざい」と不快感を持ちました。
 観客に世界史の教育をしよう、ということでしょうか。

 カーテンコールの最後に中川さんが現れたのには驚きました。
 目立った役柄でも無いし、トニー賞でジェッターが獲得したのは「助演」男優賞でしたからね。
 僕は最後に出てくるのは役柄の重要性と年齢から、グルシンツカヤの安寿ミラさんだと予測していました。

 終演後に中川さん、戸井さん、昆さんによるトークショーがありましたが、司会の中京テレビアナウンサーがミュージカル初心者で、プログラムに書かれていることの繰り返しになってしまいました。
 せっかくの機会なのにもったいないことです。
 皆さん「会場空間が広く、音が響きすぎるので、東京公演(赤坂ACTシアター)に較べスタミナを消耗すると」と言っておられました。