《ラインの黄金》 指環演出の大転換?
2017年3月5日(日)2:00PM びわ湖ホール

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 チラシによれば、
 《ニーベルングの指環》四部作を4年にわたって新制作。
 演出にドイツオペラ界が誇る世界的巨匠ミヒャエル・ハンペ、舞台装置と衣裳デザイナーに絵画、映画、オペラ等で世界的に活躍しているヘニング・フォン・ギールケを迎えます。
 キャストは国内外で活躍の歌手を厳選し、びわ湖ホールでしか観られない決定版の上演を目指します。

 びわ湖ホールの舞台機構でしか見られないプロダクションとあって、全国からファンが殺到し、琵琶湖を望むロビーは華やいでいました。
 2日ともソールドアウトとはめでたいことです。
 この日は「びわ湖マラソン」が開催されていました。

 びわ湖ホールプロデュースオペラ 《ラインの黄金》
 2017年3月5日(日)2:00PM

 指 揮:沼尻竜典(びわ湖ホール芸術監督)
 演 出:ミヒャエル・ハンペ
 装置・衣裳:ヘニング・フォン・ギールケ
 管弦楽:京都市交響楽団

 ヴォータン:青山 貴
 ドンナー:黒田 博
 フロー:福井 敬
 ローゲ:清水徹太郎
 ファゾルト:片桐直樹
 ファフナー:ジョン・ハオ
 アルベリヒ:志村文彦
 ミーメ:高橋 淳
 フリッカ:谷口睦美
 フライア:森谷真理
 エルダ:池田香織
 ヴォークリンデ:小川里美
 ヴェルグンデ:森 季子
 フロスヒルデ:中島郁子

 舞台は昨年の《さまよえるオランダ人》から予測できたように、ワーグナーが心に描いた物語を最新の照明、舞台機構を用いて現実化したもの。
 3人の乙女達はラインの河底を上へ下へと泳ぎ回りますし、神々は虹の橋を登りワルハラ城へ向かいます。

 それにしても2時間半は長かった。
 4時頃にこのオペラ最大の聴かせどころ「神々のワルハラ城への入場」が始まりました。
 その時僕が思ったのは、「あと数十分でこの会場から解放される」ということ。
 ショルティのハイライト版から慣れ親しんだこの音楽が始まるときに、こんな気持ちになるとは、自分でも驚きました。

 考えてみれば、僕は沼尻さんが苦手なんですね。
 びわ湖ホールの公演はあまり記憶に残っていないんですよ。

 キャストはどの方も(特に男声陣が)素晴らしかったと思います。

 スペクタルな場面を除けば、新しい驚きの少なかった演出ですが、ノートゥンクの登場には驚愕しました。
 ヴォータンへの警告を告げたエルダは、地中に戻ります。
 その後にヴォータンが床に手を伸ばし、引き出したのが剣(ノートゥンクでしょう)でした (@o@)。

 この部分で唐突に(今まで演奏されたことがない)『剣の動機』が出現することの意味については、ワーグナー研究家の間でも意見が交わされており、演出家の悩みとなっているようです。

 プログラムの東条碩夫さんによれば、「この『剣の動機』こそ、ヴォータンが指環奪回のために思いついた、ある秘策を象徴するものだった。
 その秘策とは何か?それは次の《ワルキューレ》で詳しく解き明かされることになる。
 ここでは、ヴォータンの口からは何も語られず、雄弁な音楽のみがすべてを予告しているのだ。

 ハンペは作曲者ワーグナーがここで『剣の動機』を出現させた意味を考え、音楽に合わせノートゥンクを具現化べきだ、と考えたのでしょう。
 ごく、素直で常識的な判断です。
 これでノートゥンクの由来は分かり、《ニーベルンクの指環》の4作すべてで、ノートゥンクはますます重要な意味を持つことになるわけです。

 このような演出は世界で初めてなのでしょうか?
 それならば、ワーグナー上演史上の転機となる、歴史的な場面を見せていただけたのだと思います。
 全国からワグネリアンが集まった舞台のハンペ演出により、今後の《ラインの黄金》の上演において、演出家はこの『剣の動機』から逃れることは出来ないでしょう。

 こうなると、6月11日(日)の愛知祝祭管弦楽団の《ワルキューレ》でノートゥンクがどのように出てくるのかが楽しみです。
 演奏会形式ですが、佐藤美晴さんなら何とかしていただける、と期待してしまいます。