イタリア・バーリ歌劇場 《イル・トロヴァトーレ》
2018年6月30日(土)3:00PM びわ湖ホール大ホール

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プログラムの解説で加藤浩子さんは「今度のバーリ歌劇場の来日公演では、バルバラ・フリットリがレオノーレを歌うという。こんなに嬉しいことは無い」と書いておられます。
 しかし、6月20日にびわ湖ホールから「レオノーラ役で出演を予定していたバルバラ・フリットリは 気管支炎悪化のため来日できなくなりました。代わってスヴェトラ・ヴァシレヴァが出こすることとなりました。なお、チケットの払い戻しはいたしませんのでご了承いただきますようお願いいたします。」という連絡が来たのでした。

 3月18日の東京二期会《ノルマ》で大隅智佳子さんが降板されたときは行かなかったのですが、今回はロビーから眺める琵琶湖の景色でも楽しもうかと行って来ました。
 バーリ歌劇場は昨日の6月29日(金)に、名古屋で《トゥーランドット》(マリア・グレギナ)を上演しており、リューのセペが良かったそうです。


 イタリア・バーリ歌劇場 《イル・トロヴァトーレ》
 2018年6月30日(土)3:00PM
 びわ湖ホール大ホール

 指揮:ジャンパオロ・ビサンティ
 演出:ジョセフ・フランコニ・リー

 マンリーコ:フランチェスコ・メーリ
 レオノーラ:スヴェトラ・ヴァシレヴァ
 ルーナ伯爵:アルベルト・ガザーレ
 アズチェーナ:ミリヤーナ・ニコリッチ
 フェルランド:アレッサンドロ・スピーナ
 イタリア・バーリ歌劇場合唱団、管弦楽団

 バーリはイタリア半島のかかとの部分に当たり、人口3.2万人、ナポリ、パレルモに次ぐ、南イタリア第3の都市だそうです。
 イタリアで大劇場と呼ばれるのはミラノのスカラ座、パレルモのマッシモ劇場、ナポリのサン・カルロ劇場、そしてバーリの4歌劇場だそうです。
 イタリアの地方都市の鄙びたオペラを見に行った積もりだったのですが、素晴らしい公演に巡り会うことが出来ました。

 《イル・トロヴァトーレ》を成功させるためには4人の卓越したソリストが必要だと言われていますが、今回の公演は端役に至るまで豊かな声量を持つ歌手が集められ、ヴェルディの沸き上がる才能を改めて堪能すること下出来ました。
 ヴァシレヴァは舞台姿の美しいソプラノでしたが、やはりフリットリを聴いておきたかったですね。

 地方の歌劇場にもかかわらず、合唱の人数も多く、レベルも高い。
 ビサンティ指揮するオーケストラも、アリアに積極的に絡みついていくクラリネットのアルペジオなど、印象的な部分が多かった。

 特に書いておきたいのは、リーの演出。
 第4幕など、書き割りの背景だけで、舞台は何も無い巨大な空間。
 まず下手でアズチェーナとマンリーコの二重唱、続いて上手でレオノーラとマンリーコの二重唱、そして中央でルーナ伯爵とマンリーコの二重唱、これらの物語が何の違和感もなく進んでいくのです。
 三河オペラのようなプロジェクション・マッピングも無く、METライブ・ビューイングのような大道具も無く、照明と演技だけでこれだけの充実した舞台を造り上げる才能に、多大な感銘を受けました。

 全般に素晴らしい歌唱を聴かせてくれたメーリですが、聴かせどころの「見よ、恐ろしい炎を」は納得できませんでした。
 彼は後半の繰り返しを後ろを向いたままで、「可哀想な母さん、すぐ助けに行くよ」などの歌詞を歌わず、最後に振り向いて「戦いだ!」だけを歌って、苦しそうにプチンと切ったのでした。

 今年の「NHKニューイヤーオペラコンサート」で笛田博昭さん(ファンです)がこの曲を歌われました。
 笛田さんは合唱団と共に、「可哀想な母さん、すぐ助けに行くよ」を歌い、クライマックスの「ハイC」を長く伸ばしたのでした。
 この曲に関する限り、笛田さんの圧勝です。
 プログラムでメーリは「マンリーコはリリック・テノールの役です」と語っている(言い訳?)ので、この曲(ハイC)を歌えないのかも知れません。

 開演前の琵琶湖は雲は垂れ込めていたものの対岸の山は綺麗に見えていました。
 ところが、休憩時間のロビーから見えたのは雲なのか霧なのか、ロビーの外は真っ白で湖面も見えず、激しい雷が何発も落ちてきました。
 これほど嶮しい琵琶湖を見るのは初めてです。
 
 帰りが心配なので、カーテンコールの途中で早めにホール抜け出します。
 先んずれば人を制す、ですね。
 ところがロビーには「JRは草津から京都の間で運休しております」との掲示!
 頭が白くなりましたが、まずは大津駅に行かなくてはと、タクシーに並びました。
 ところがいつまでたってもタクシーが来ません。
 シャトルバスはもっと悲惨な長い列が出来ていました。

 30分ほど待ったでしょうか、やっと来たタクシーに乗り合わせて大津駅に到着。
 そこで得た情報は「JRは8時まで動きません。京阪が動いているので、それで京都まで行って下さい」とのこと。
 京都まで行けば新幹線は通常どおり動いいるけれど、JRでは京都へ行けないのだそうです。

 暗くなった大津の旧市街をフラフラと歩きながら、京阪浜大津駅に到着すると、プラットフォームからこぼれ落ちそうな大混雑。
 「列車は運行しておりますが、大幅に遅刻しており、いつ到着するか分かりません」との放送が何度も繰り返されます。
 プラットフォームから押し出される生命の危機を感じたので、いったん駅を出て、誰もいない「すき屋」で牛丼を食べながら30分を過ごします。

 浜大津駅に戻ると、ちょうど列車が来たところで、混雑していましたが乗車することが出来ました。
 で、烏丸御池で地下鉄に乗り換え、京都駅に着いたのは9時前。
 大津駅でJR再開を待っていた方が良かったでしょうか?

 この経験は本日の《トロヴァトーレ》に集まった全てのオペラファンが経験したことで、皆さまと強い仲間意識を持ってしまいます (^_^) 。
 着飾った人、和服を着ておられる方など、お気の毒でした。
 観客だけでは無く、バーリ歌劇場のオーケストラも合唱団などの関係者も同じ経験をしたはずです。
 ソリストなどには専用車が出たでしょうか?
 しかし、京都への道路も大渋滞して、車が動かないでいるという情報もありました。