小澤征爾音楽塾オペラプロジェクトXIX プッチーニ 《ラ・ボエーム》
2023年3月26日(日)3:00PM 愛知県芸術劇場大ホール

『REVIEW23』に戻る  『ホームページへ』
  
  
 Youtubeで《ラ・ボエーム》を探していたら、1981年のスカラ座来日公演の画像が出てきて狂喜乱舞。
 指揮:カルロス・クライバー、演出:フランコ・ゼッフィレッリ、ミミ:ミレッラ・フレーニ。
 この舞台を見るために僕は会議を抜け出して、階段を踏み外しながら、フェスティバルホールに走ったのでした。
 この頃からオペラを見るようになったんですね。

 小澤征爾音楽塾プロジェクトⅤ《ラ・ボエーム》を観劇したのは2004年5月8日、アクトシティ浜松大ホールでした。
 大好きなロバートカーセンの演出で、ファンサービスでしょうか、ムゼッタ役アンナ・ネトレプコの下着シーンがありました。
 あの頃のネトレプコはスタイルが良かった。

 小澤征爾音楽塾オペラプロジェクトXIX
 プッチーニ 《ラ・ボエーム》
 2023年3月26日(日)3:00PM
 愛知県芸術劇場大ホール

 音楽監督:小澤征爾
 指 揮:ディエゴ・マテウス
 演 出:デイヴィッド・ニース

 ミミ:エリザベス・カバイエロ
 ロドルフォ:ジャン=フランソワ・ボラス
 ムゼッタ:アナ・クリスティ
 マルチェッロ:デイヴィッド・ビズィック
 ショナール:デイヴィッド・クロフォード
 コッリーネ:ウィリアム・トマス
 ベノワ/アルチンドーロ:フィリップ・ココリノス
 管弦楽:小澤征爾音楽塾オーケストラ
 合 唱:小澤征爾音楽塾合唱団

 指揮は今年から小澤征爾音楽塾初めての首席指揮者に就任したディエゴ・マテウス。
 ベネズエラのエル・システマ出身で、23年にはメトロポリタン歌劇場で《カルメン》を振る予定とのこと。
 演出のデイヴィッド・ニースはメトロポリタン歌劇場の首席演出家として25年にわたり活動。
 ゼッフィレッリの《ラ・ボエーム》では演出助手(?)を務めたとのこと。

 会場の入りは半分でしょうか?
 愛知県芸術劇場大ホールは5階席まである巨大ホールですからね。
 しかし、小澤征爾の《ラ・ボエーム》がこれでは困ったものです。
 また「名古屋飛ばし」にならなけれぼ良いのですが……。
 僕は12席あるボックス席を一人で占拠しまして、実に快適な観劇となりました。

  同じ会場のミュージカル《ジキルとハイド》はソールドアウトだそうです。
 オペラはミュージカルに観客動員では勝てない状況ですね。

 さて、第一幕では屋根裏部屋なのに、大きな上に向かう階段があるのに違和感を感じました。
 屋根の修理をするためでしょうか?
 「ここからミミが現れるのではないか」と心配しましたが、ミミは別の扉から登場し、安心しました。
 この階段は第一幕では全く使われず、第二幕では群衆が通行する階段となっていました。
 舞台転換の都合でしょうか?

 男声4人のアンサンブルは良かったのですが、ロドルフォは高音が出せない。
 「冷たいこの手」では聴かせ所のハイCが一瞬で(これはハイテンポで飛ばすの指揮のためもあるかもしれません)、二重唱の最後は音を下げて歌っていました。

 「この人はこんな歌を聴かせるために日本に来たのか」と、ちょっとイラッとしました。
 本日が千秋楽のようで、疲れもあるのかな?
 ほかの会場ではちゃんと歌っていたかもしれません。

 ミミは声が細い。
 まあ、愛知県芸術劇場大ホールは巨大ホールですからね。

 パリに行かれた方はモンマルトルの丘の上に「ラ・ボエーム」というカフェがあるのをご存じだと思いますが、第二幕のカフェ・モミュスがあるカルチェ・ラタンは場所が違うのでしょうか?
 謎に思ってガイドブックをみても、確認する相手がいないんですね。
 この店は席についても、ほかの店と違って、スタッフが寄ってきませんでした。
 人種差別かとも思いましたが、被害妄想でしょうか?

 さて、第二幕はゼッフィレッリなら2階建ての舞台を大人数がぞろぞろ歩いていますが、本日のパリ市民は店の周りで立っているだけ。
 ニースがゼッフィレッリの演出助手(?)をしたなんて本当でしょうか?

 ムゼッタのアリアもスカートを膝まで上げるだけ。
 太ももまで上げて貰わないと大騒ぎにはならないでしょう。
 生足の演出もありましたね。

 第三幕ではマルチェッロに家に帰るよう言われたミミは舞台から左横に出て行きますが、ロドルフォとマルチェッロの二重唱を聞くミミは舞台後方に現れます。
 テレポーテーションでしょうか。
 こういう整合性の無い演出は大嫌いです。

 このオペラのストーリーのクライマックスは、ロドルフォとマルチェッロの二重唱で、ミミが自分の死を知る場面でしょう。
 ここは泣くとか咳をするとかミミの存在が明らかになることによって、ロドルフォの「ミミ、聞いていたのか」という驚きの歌になるわけです。
 本日のミミはロドルフォに背を向けて立っているだけ。
 で、ロドルフォが勝手に気づいて「ミミ、聞いていたのか」となっていました。
 超能力ですね。
 ニースがゼッフィレッリの演出助手(?)をしたなんて本当でしょうか?

 僕は第四幕は第一幕の焼き直しで、無くても良いと思っていました。
 しかしこの第四幕が意外に良かった。
 コッリーネのアリア「古い外套よ」は今日一番の出来かと思いました。
 しかし、肝心のミミの死の場面が良くない。

 ここはミミの死を表すオーケストラの和音に応じて、ミミが手をだらりと落とすとか、首をガックリ落とすとか、死の演技をしなくてはなりません。
 ゼッフィレッリの演出では和音に応じて左手とマフが落ち、その手を元に戻そうとしたショナールがミミが息をしていないことに気がつきます。
 本日のミミはただ寝ているだけで、舞台には何の動きもありません。
 これではいつミミが死んだのかが分かりません。
 プッチーニが何のためにこの和音を書いたと思っているのでしょう。
 ニースがゼッフィレッリの演出助手(?)をしたなんて本当でしょうか?

 アジアの若い俊英が集まったという小澤征爾音楽塾オーケストラはまとまりが悪い印象。
 今まで3回の上演を終え、本日が千秋楽なのにこれでは期待外れです。
 「悪いオーケストラは無い。悪い指揮者がいるだけ」という言葉があるそうですが、そういうことでしょうか?

 演出も歌唱もオーケストラも、僕にとってはあまり満足できない公演でした。
 オペラ入門者が最初に聴くべき作品として《ラ・ボエーム》が挙げられますが、こんな舞台ではオペラファンを増やすことはできないでしょう。
 1981年のスカラ座来日公演が僕のデフォルトなので、どうしても見方が厳しくなってしまうわけです。

 2007年5月2日、僕はトッレ・デル・ラーゴにあるプッチーニの別荘を訪れました。
 1896年に初演された《ラ・ボエーム》などの収入で、プッチーニは1891年にこの別荘を購入したわけです。

 名古屋では6月24日にパレルモ・マッシモ劇場の《ラ・ボエーム》(ミミ:ゲオルギュー)が予定されています。
 名古屋テアトロ管弦楽団の《ラ・ボエーム》(ミミ:伊藤晴 7月16日 東海市民劇場)はチケット発売が始まりました。
 4月12・13日にはドラッグとエイズ時代のニューヨークを舞台とした現代版《ラ・ボエーム》である《RENT》がこの劇場で上演されます。
 音楽雑誌を読んでいると《RENT》は《ラ・ボエーム》を語る上で、欠かせない作品になっているようです。