舞台祝祭劇『ニーベルングの指環』ガラ マレク・ヤノフスキ
2024年4月7日(日)3:00PM 東京文化会館 大ホール

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 舞台祝祭劇『ニーベルングの指環』より
 2024年4月7日(日)3:00PM
 東京文化会館 大ホール

 序夜《ラインの黄金》より第4場「城へと歩む橋は……」〜 フィナーレ
  ヴォータン:マルクス・アイヒェ(バリトン)
  フロー:岸浪愛学(テノール)
  ローゲ:ヴィンセント・ヴォルフシュタイナー(テノール)
  フリッカ:杉山由紀(メゾ・ソプラノ)
  ヴォークリンデ:冨平安希子(ソプラノ)
  ヴェルグンデ:秋本悠希(メソ・ソプラノ)
  フロースヒルデ:金子美香(メゾ・ソプラノ)

 第1日《ワルキューレ》より第1幕 第3場「父は誓った 俺がひと振りの剣を見出すと……」〜第1幕フィナーレ
 ジークムント:ヴィンセント・ヴォルフシュタイナー(テノール)
 ジークリンデ:エレーナ・パンクラトヴァ(ソプラノ)
 
 第2日《ジークフリート》より第2幕「森のささやき」〜フィナーレ
 第3場「あいつが父親でないとは うれしくてたまらない」―森のささやき
 第3場「親切な小鳥よ 教えてくれ……」〜第2幕フィナーレ
 ジークフリート:ヴィンセント・ヴォルフシュタイナー(テノール)
 森の鳥:中畑有美子(ソプラノ)

第3日《神々の黄昏》より第3幕 第3場ブリュンヒルデの自己犠牲「わが前に 硬い薪を積み上げよ……」
 ブリュンヒルデ:エレーナ・パンクラトヴァ(ソプラノ)

 指揮:マレク・ヤノフスキ
 管弦楽:NHK交響楽団
 ゲスト・コンサートマスター:ウォルフガング・ヘントリヒ

 N響のトゥッティ奏者だった鶴我裕子さんが書かれた「バイオリニストは肩が凝る」という本があります。
 これは入団試験は必死に練習するが、入ってしまえば「出番」より「降り番」が嬉しい、というN響奏者の恐ろしい実態を書いた本です。
 その嬉しさは「ランチの後に『イチゴミルク』がサービスで付いたくらい」、だそうです。

 N響が2004年3月に新国立劇場で《リング》を演奏したときに、彼女は初めての機会で、譜読みの何日目になっても弾けるようにならないので心配になってきたそうです。
 しかし、指揮者の準・メルクルは、すべての練習期間中、1度も怒らなかった。
 それどころか、「とてもよく進んでいるから」と練習日を2日も減らしてくれて、「休日はもう、オペラを忘れて」とまで言ってくれた。
 そして、「いい人だなあ」というのが彼女の気持ちです。
 結局、劇場に来た観客は、手抜き指揮者と手抜きオーケストラの《神々の黄昏》を聴かされたように思えるのです。

 一方、藤田真央さんの『指先から旅をする』によれば、
 ヤノフスキの練習は非常に厳しく、空気はとてつもなく凍っていた。
 通して弾けば約2分で終わるオーケストラの主題提示を30分ほどかけてリハーサルして、私の音色にまろやかに適合した音を作った。
 私は今回のヤノフスキとの出会いが本当に嬉しく、また一緒に音楽を追求できる日を持ち望んでいる、とのことです。
 
 僕も歳を取って東京まで遠征する気力も体力も無くなってきました。
 しかし、ヤノフスキの指環はどうしても聴いておかないと。
 マレク・ヤノフスキはワルシャワ生まれの85歳ですから。
 上野公園の花見に向かう人々に囲まれて上野駅を出ると、そこに桜はありませんでした。
 花見会場までは遠く、歩く元気もありません。

 今回のプログラムは、各場面のフィナーレを集めたもの。
 それはそれでまとまったコンセプトですが、『ヴォータンの別れと魔の炎の音楽』と 、これはフィナーレでは無いけれど『ジークフリートの葬送行進曲』は聴きたかったですね。

 作品としては《ワルキューレ》第1幕が、やはり素晴らしい。
 ジークムントのヴィンセント・ヴォルフシュタイナーとジークリンデのエレーナ・パンクラトヴァの厚いオケを突き破る歌声は圧倒的。
 N響もカッチリとした演奏で、ヤノフスキの85歳とは思えぬスケールの大きい『ニーベルングの指環』を堪能してきました。

 ワーグナーが《ワルキューレ》を作曲したチューリッヒの家はこちらです。
 この普通に見えるアパートで神々の壮大な物語が創られたとは不思議な気がします。

 今年はこれでワーグナーを聴く機会が無いようで、《リング》のチクルスが重なった数年前とは大違いです。