ロンドン・オペラとミュージカルの旅
21) オペラ 《真夏の夜の夢》
 カーセン演出 95年6月6日(火)

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 95年6月6日(火)の8

 お話は有名なシェークスピアの戯曲だが、僕は今回の公演のために初めて本を読みました。

 指揮:スチュアート・ベッドフォード  演出:ロバート・カーセン

 第一幕の舞台はアテネ郊外の森(原作では)。
 舞台は傾斜が付いて、大きい一枚の緑の布で覆われている。
 この緑が森をイメージしていることは言うまでもないだろう。

 出てきた妖精たち(少年合唱)が布の下手側をめくるとそこには大きな枕が二つ。
 つまり、舞台全体が大きなダブルベッドになっている。
 背景は青い夜空に小さな三日月。

 原作によれば、妖精の王オベロン(クリストファー・ロブソン/カウンターテノール)は妻タイターニア(リリアン・ワトソン)の持つインド人の小姓が欲しくてたまらなくて、ケンカをしている。
 この舞台ではタイターニアが抱いている赤ん坊(これがインド人の小姓か?)の取り合いをしているようだ。

 オベロンの服装は、緑のガウン。
 パックを始めとする妖精たちも緑の服を着ている。
 これも森を象徴しているのだろう。
 タイターニアは紺色のドレス。

 タイターニアに怒ったオベロンはパックに《浮気草》(名曲解説全集による・睡眠中の者の瞼に塗ると目が覚めて始めてみた者を恋してしまう)という薬草を遠い国から持ち帰るよう命ずる。

 このパック(エミール・ヴォルク)が傑作。
 ハゲかかったおじいさんなんだけれど、飛んだり跳ねたり。
 出ていくときも、舞台から後ろに飛び込んだり、ある時は上手に走ってボックス席に飛び込んでしまったからびっくり。
 この席、開けてあったんだね。
 パックに歌はないから俳優さんだと思うけれど、どういう人だろう?

 妖精は《トリニティー少年合唱団》 が歌っているんだけれど、すごく上手。
 よく見ると、頭をポマードで固めて、ヒゲを付けている。
 パックに合わせて、おじさん風にしているのかな?

 さて、舞台にはライサンダーとハーミアの恋人が登場。
 ハーミアの父親に結婚を反対されて駆け落ちをしている。

 次に現れるのは、ハーミアを愛しているデメトリアス。
 それを追って、デメトリアスを片想いしているヘレナ。

 服装は全員白いスーツ。
 グレタ・ガルボ風と言えばいいのかな?

 デメトリアスはヘレナを邪魔者扱いして、傘で追い返そうとする。
 と、ヘレナはその傘をつかんでデメトリアスを引き寄せ、押し倒して、スカートをめくって上に乗っかってしまう。

 この演出では、『好き』ということは『乗っかってしまう』ということで、分かり易いというか(^^)。

 オベロンはパックに《浮気草》の汁をデメトリアスの瞼に塗るよう命じる。
 これをパックが間違えて眠っているライサンダーに塗ってしまったため、ライサンダーは最初に見たヘレナを追いかけるようになる。

 もう一つのお話は、同じ森で、アテネの大公シーシアスの結婚祝いの《ピラマスとシスビー》の練習をする、クインス、ボトム、フルートらの職人たち。

 第一幕の終わりはタイターニアが眠る場面。
 ここでワトソンはドレスを脱いで紺色のスリップ姿となる。
 《妖精の子守歌》の少年合唱、本当に上手。

 この公演は第一幕と第二幕が続けて上演された。
 ちゃんとプログラムに『第一・二幕で95分、第三幕は50分。 間に25分の休憩あり』と書かれているので、分かり易い。

 第二幕の幕が上がると、一幕と同じ緑の布の上に(病院のベッドみたいな)ベッドが7つ並んでいる。
 客席から笑い声が上がる。
 第一幕に較べると、三日月がずっと大きくなっている。

 一つのベッドにはタイターニアが寝ている。
 彼女は一幕の最後にオベロンに《浮気草》を塗られている。

 職人たちが現れ、劇の練習を始める。
 で、いたずら者のパックはボトムをろばに変えてしまう。
 ろばを見た他の職人たちはびっくりして逃げてしまう。

 目を覚ましたタイターニアは、最初に見たこのろばに一目惚れ。
 スリップ姿のまま(例によって)ろばを押し倒して上に乗っかると、ろばの唇がけいれんするので、また客席が大喜び。
 タイターニアの命令で妖精たちがろばの接待をするが、手袋をしたりして、嫌々ということがよく分かる。
 やがてタイターニアとろばは同じベッドで寝てしまう。

 そこにオベロンとパックが現れて上手くいったと喜んでいるんだけれど、オベロンって、奥さんの不倫現場を見ても平気なんだろうか?

 次に4人の恋人が現れて、話が複雑なので簡単に言うと、《浮気草》のために、ごちゃごちゃになってしまうのね。
 この会話は結構笑えるようで、僕以外の客席は盛り上がっていた。

 これもパックの失敗、ということでパックはオベロンに怒られるんだけれど、怒られる度、倒れたり、ひっくり返ったり、まるで作曲者のブリテンと相談したように音楽と合っていて、この場面は感心した。

 第二幕の最後は、パックがそれぞれの恋人たちを上手く隣り合わせて寝かせ、《浮気草》を瞼に付けておしまい。

 ここで休憩となる。

 休憩後の第三幕は、舞台は一・二幕と同じ緑の布なんだけれど、何と3つのベッドが天井から吊るされている(地上4〜5メートルか?)。
 各々のベッドに3組のカップルが入っているわけだ。
 ここで観客から大拍手。

 やがてベッドが降ろされて、インド人の小姓(赤ん坊?)を手に入れたオベロンは上機嫌でタイターニアと仲直りして(赤ん坊を渡されたパックが振り回してみせるので大笑い)、下着姿の2組のカップルもそれぞれ仲直りをする。

 そして、ろばから人間に戻されたボトムが探しに来た職人たちと出会って一安心。

 ここで場面転換となる。

 妖精たちが現れて、ベッドのまわりで何か準備をしている。
 そして彼らが立ち去った後にベッドが引き上げられると、舞台を覆っていた緑の布がベッドに付いて引き上げられて、舞台は白一色の大公シーシアスの宮殿となる。
 実に冴えた演出だと思う。

 大公夫妻と例の2組のカップルが現れて、結婚式となる。
 そして職人たちによる《ピラマスとシスビー》の上演。
 下着姿で、ローマ風のガウンを着るのに苦労をしている。
 実に登場人物が下着姿になる演出だ。

 やがて彼らは退場し、12時になるとオベロン、タイターニア、妖精たちが現れ、3組のカップルを祝福する。
 パックが下手カーテンの陰から顔を出し、と思うとするすると上に引き上げられて、カーテンの真ん中くらいの高さで、最後のせりふを語っておしまい。

 カーテンコールでパックはオーケストラピットに現れ、客のいるボックス席に飛び込もうとしてみんなをびっくりさせる。
 このおじいさんパック、最後までお茶目だね。

 ということで、大変に盛り上がった楽しい舞台だったんだけど、今となっては、あまりオペラを観たという印象が残っていない。
 楽しい、音楽付きの演劇を観た、というか。。。

 もともとの曲がシェークスピアのせりふに音楽を付けたものだから、仕方がないのかな?
 勿論このオペラについて、これ以上の上演はなかなか難しいと思いますよ。

 この後、僕は演出のロバート・カーセンの追っかけをするようになります。
 
 
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