ロンドン・オペラとミュージカルの旅
24) 《オリヴァー!》
 95年6月7日(水)

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 《ロンドン塔》から地下鉄で《オックスフォード・サーカス》に移動する。
 ロンドンの繁華街《オックスフォード・サーカス》はすごい人の波だ。

 《オリヴァー!》を上演している《ロンドン・パラディウム》は《オックスフォード・サーカス》のすぐそばの《アーガイル・ストリート》にある。
 この《アーガイル・ストリート》は『横丁』という感じの通りで、両側にパブやレストランがいっぱい並んでいる。
 ここも人の波。

 黒板に『ロースト・ビーフ』と書いてあるパブに入ってみた。
 パブの名前はツタに隠れて見えない。

 注文は『ロースト・ビーフ&ヨークシャーブディング(グレイビーソース)』。
 これは肉の中まで火が通っていて、あまり美味しくなかった。
 量は多い。
 『ヨークシャーブディング』は大きいのが一つ、肉の上に乗っていた。

 外に出ると、眼の前に赤い帽子をかぶった子供の群。
 ひょっとすると、と思って見ていたら、みんな《オリヴァー!》に入っていった。

 この作品はイギリスの作家ディッケンズの代表作《オリヴァー・ツイスト》をミュージカル化したものだから子供たちの鑑賞教材になっているんだね(多分)。

 考えてみれば、出演者にも子供が多いわけで、彼らの学校の方はどうなっているのだろう、と心配してしまう。

 《オリヴァー!》は60年代に作られたミュージカルだが、今回の上演は有名なプロデューサー、キャメロン・マッキントッシュが5億円の費用をかけたリメイク版。

 13才のオリヴァーは孤児院から葬儀屋に売られる。
 そこを逃げ出した彼はロンドンにやってくる。
 そこでオリヴァーは浮浪児のドジャーに会い、スリの元締めフェイギンのところへ案内され、そこで暮らすようになる。
 彼はスリをさせられそうになったが、ナンシーの助けもあり、最後は金持ちの実の祖父に引き取られる、というお話。 

 出発前にマーク・レスター主演の映画を見て(この映画はミュージカル映画としてよくできている方だと思う)、ディッケンズの原作を読んで(辛かった)予習をした。
 ビクトリア朝ロンドンを舞台としたこのミュージカルほどウエストエンドで上演されるのにふさわしい作品はないだろう。
 まあ、ビクトリア朝ロンドンの暗い部分だけれど。

 《ロンドン・パラディウム》劇場の内部は赤を基調としたクラシックでデラックスなもの。
 開演は14時30分。

 何より感心したのがオリヴァー役の Simon Schofield 。
 小さいのに歌も踊りも芝居も何もかも上手。

 フェイギン役のご存知 Jonathan Pryce もいいんだけれど、もう一人感心したのがナンシー役の Sally Dexter 。
 ドスが利いて、下品なところがいかにも下町娘らしい。

 あと、すごいのが舞台装置だね(Director : Sam Mendes)。
 《オリヴァー・マーチ》の場面なんか、後ろの町並みの大道具が微妙に動いて、どんどん道を進んでいく感じになって(不思議だ)、最後には舞台中央に大きなセント・ポール寺院が現れる。

 そして、ドジャーがマンホールのふたを開けると、舞台が上に7〜8メーター位上がって、下からフェイギン一味の隠れ家が現れる。

 《ミス・サイゴン》までは、大道具は上からと横から出てきたんだけれど、《サンセット大通り》では舞台全体が上方に上がって、そして最新作の《オリヴァー!》では地下から上がって来るという進化論ですな。

 ミュージカルの原作っていい加減な話が多いけれど、この《オリヴァー!》もそうだ。
 大体、生まれたときから孤児院育ちで放ったらかしだったのに、心清く、礼儀正しく育った、なんてことはあり得ないと思う。

 もっとひどいのは、オリヴァーがドジャーたちと一緒にスリの見習いにいって、(本当はドジャーがスったのに)犯人と間違えられるんだけれど、その被害者ブラウンロー氏に気に入られて、オリヴァーは邸宅に引き取られる。
 そのブラウンロー氏が、な、なんと!オリヴァーの母親(アガサ)の父親、つまりオリヴァーのおじいさんだっていうんだもの(^^;。
 でも、ミュージカルなら許せてしまうんだね。

 原作の小説では、ブラウンロー氏の友人の妹の子供がオリヴァーなんだけれど、どうせなら孫の方が単純でいいのかな。

 またミュージカルには小説の重要な登場人物、オリヴァーの異母兄が出てこない。
 《オリヴァー・ツイスト》という小説は、この異母兄の依頼で、フェイギンたちがオリヴァーを悪の道に引き込もうとする、相続争いの話なんだ。
  
 まあそれはさておき、このミュージカルは親しみやすいメロディーが多いし、舞台装置を見ているだけでも楽しいし、ロンドンに行かれる方にぜひお薦めしたい。

 日本で上演してももロングランが期待できるんじゃないかな?
 名作小説のミュージカル化ということで学童鑑賞、修学旅行での観客動員もできるだろう。

 最後のカーテンコールで、皆ブラボーを受けている中で、ビル・サイクス(Miles Anderson)だけが ブーッて言われているの。
 オリヴァーをいじめたり、ナンシーを殺してしまったり、嫌われ役だから。
 この人、ときどき拍子がずれたりしておかしいよ。

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