ウィーン・ミレニアム紀行(6)12月30日(木)の5
ミュージカル 《モーツアルト!》

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◇ミュージカル《モーツアルト!》/アン・デア・ウィーン劇場

 劇場に到着するとチケット売り場に並んでいる人がいたが、これは立ち見席(30シリング)を買う人。
 満席状態で、日本人多し。

 さて今回の旅行最大の目的、リーヴァイ、クンツェ、クプファーという《エリザベート》トリオによる新作《モーツアルト!》だが、これは残念なことに全くの期待外れであった。

 
 ストーリーはもちろんモーツアルトの生涯だが、無駄な部分が多すぎる。
 なかなか父親レオポルドが死なないのにもいらいらしたが、やっと死んだと思ったら(1787年)すぐモーツアルトも死んでしまう(1791年)など、どうも話の組み立てが上手くいっていない。
 モーツアルトの天才を象徴するのであろうかアマデ君という子役がいて(黙役)、場面に関係なく寝転がって楽譜ばかり書いていて、一生懸命がんばっている子役には申し訳けないが、僕には目障りで邪魔なだけだった。
 最後は羽根ペンでモーツアルトを刺したりして意味を持たせている積もりのようだが、あまりに唐突だしアイディア倒れだ。

 ほぼ全編音楽のこのミュージカルだが、残念ながら印象に残るナンバーが少ない。
 最も美しい曲は『シーン10・ザルツブルグ教会のオルガンの傍』でのヴァルトシュテッテン伯爵夫人の歌であろうが、このようなモーツアルトの伝記にほとんど出てこないような人物に重要な曲を歌わせる構成には疑問を感じた。

 『この曲はどこかで聞いたことがある』と考えて思いついたのが《オペラ座の怪人》の『ミュージック・オブ・ザ・ナイト』。
 KANの『愛は勝つ』にも似ているかもしれない。

 クプファーの演出には《エリザベート》のような冴えが無い。
 《エリザベート》が彼の絶頂期だったのであろうか。
 才能は枯渇するものだから。

 舞台は大きな回り舞台で、まあ大きな正方形のカステラを想像してもらって、それを縦方向に10本に切って、それが1本ずつ上下するという大仕掛けなもの。
 コンピューター制御しているのだろうがかなり危なそうな装置なので、ケガ人が出ないことを祈っておこう。

 残念なことにコロレド大司教役はファーストキャストのウヴェ・クレーガーではなくブロヒャートであった。
 ウヴェ・クレーガーはヴィースバーデンの《サンセット大通り》でも見ることが出来なかったので、どうも相性が悪いらしい。
 
 その《サンセット大通り》のオールターナティブキャストだったイングヴェ・ガソイ・ロンデルが主役のモーツアルトを演じ、薄汚い姿でがんばっていた。
 ヴィースバーデン当時は名前に『ロンデル』は無かったのに、どうなったのだろう?
 婿入りしたのか?

 歌手の中で素晴らしかったのはコロレド大司教のブロヒャートで、その張りのある声は場内を圧倒した。
 しかし、ロビーで『ウヴェはこんなものじゃないのよお!』という日本人女性の声が聞こえたことは書いておこう。
 コンスタンツェ、ナンネルの女性陣は弱かった。

 さて、このミュージカルで最も印象に残ったヴァルトシュテッテン伯爵夫人の歌だが、この曲の途中で天井棧敷の立ち見席がざわざわしてきて、そのうち民族移動が起こった。
 ヴァルトシュテッテン夫人はそのまま歌い続けたが、急にステージにカーテンが降りてきて、観客がロビーへと移動し始めた。

 きな臭い臭いがして、どうも火事らしい。
 ウィーンでは1881年のリング劇場の火事で、多くの死者が出たことなどを思い出してしまった。
 ロビーでは4人の消防士の姿も見えた。

 鎮火後、舞台はヴァルトシュテッテン夫人の歌から再開されたが、そりゃ拍手歓声は非常に多かったわね (^_^) 。
 火事騒ぎのため終演は10時40分であった。
 


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