飯守泰次郎・新交響楽団 《トリスタンとイゾルデ》 抜粋
2006年11月12日(日)2:00PM 東京芸術劇場大ホール

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 《トリスタンとイゾルデ》は僕にとってワーグナーのオペラの中でもよく分からない作品です。
 せっかくの機会なのでベームのCDをBGMにして暮らしました。
 ポンネルのバイロイトのビデオも見てみました。
 時間がかかるので、1回通してみるだけでも大変です。

 第三幕を「トリスタンの妄想」にしてしまったこの演出は、ぼくにとって大変不愉快なものでした。
 演出家が作曲家の意図を無視して、自分の勝手気ままに作品を作り変える、コンヴィチュニーらの悪しき先達がここにいたんですね。

 それはさておき、飯守先生の《トリスタンとイゾルデ》を聴いたのは、飯守先生が名古屋フィルハーモニー交響楽団の常任指揮者になられた1993年でしょうか。
 事前にスタジオジミアであったレクチャーにも参加させていただきました。

 演奏会形式の公演でしたが、トリスタンとイゾルデが直立して歌う愛の二重唱にはあまり官能性を感じませんでした。
 それまでワーグナーのオペラをほとんど聴いたことがなかった僕には、難しすぎたんですね。

 しかし今年の『名古屋二期会ニューイヤーコンサート』で聴いた飯守先生の『愛の死』(イゾルデ:基村昌代)はあまりにも素晴らしく、あの体験をもう一度ということで、新交響楽団の定期演奏会に出かけました。

 早く上野に着いて、空が抜けるように青いので、国立西洋美術館を散歩。

カレーの市民 考える人


 1時間前に東京文化会館に行ってみると、なんだか様子がおかしい。
 よくよくチケットを見ると会場は東京芸術劇場 (@o@)。
 名前が紛らわしいんですね。
 そうでもない (^_^; ?

 あわてて山手線に乗って池袋に移動です。
 動揺しましたが、余裕を持って間に合いました (^_^) 。

 東京芸術劇場には開館の時に来ただけで、もう何年ぶりでしょう。
 ミュージカル《ルルドの奇跡》で中ホールには来たことがあるけれど、大ホールに入れるとは絶好のチャンスでした。

東京芸術劇場 エントランス
上から見ると 大ホール入口
ロビー カフェ
池袋駅方面 大ホール
窓からの景色 丹沢山系??


      新交響楽団第195回定期演奏会
     2006年11月12日(日)2:00PM
        東京芸術劇場大ホール
   楽劇 《トリスタンとイゾルデ》抜粋 (演奏会形式)

          指揮:飯守泰次郎
       トリスタン:成田勝美(T)
        イゾルデ:緑川まり(S)
       マルケ王:長谷川顯(B)
     ブランゲーネ:小山由美(MS)
    クルヴェナール:成田博之(Br)
       合唱 栗友会・樹の会
 
 抜粋ということで、内容を半分くらいに削ったそうですが、それでも各幕1時間くらい。
 休憩を入れて3時間あまりの長丁場の公演でした。

 品田博之さん(クラリネット)によるプログラムノートは初心者向けの思いやりのある、それでいて詳細なもので、聴き所をチェックして観劇に臨みました。
 トリスタンって、フランス人だった(というかフランスに領土があった)のね (@o@)。

 第一幕は「前奏曲」と主に「第五場」。
 イゾルデに呼ばれたトリスタンが姿を現してからです。
 プログラムノートには「字幕に気を取られずに緊迫した音楽をお楽しみ下さい」と書かれています。
 死の薬だと信じて愛の薬を飲んでしまった二人。
 フィナーレにかけて、コーラス、バンダも入り、壮大なクライマックスに圧倒されました。
 
 緑川さんは白いドレス、小山さんは青いドレスでした。
 緑川さんが《神々の黄昏》のブリュンヒルデを歌ったときに、ドレスで現れたときには違和感がありましたが、イゾルデならば違和感はありません。

 このオペラの中心は、もちろん第二幕第二場の長大な愛の二重唱でしょう。
 しかしながら肝心なこの部分が、僕はちょっともの足りませんでした。
 やはり恋人たちが前を向いたまま互いに無視し合って歌うのは、事情も分かりますが、オペラティックな感興を削いでしまうような気がします。

 ブランゲーネの警告は舞台裏から歌われましたが、声が小さかった。
 小山さんはもちろん声量豊かな方ですが、舞台裏からフルオーケストラを相手に歌わせるのは気の毒でした。
 同じ舞台裏でも、もう少しステージに近い場所で歌われた方が良かったような気がします。

 プログラムノートではブランゲーネについて「逢い引きの場面では見張りをしながら、結局マルケ王に踏み込まれてしまう」と解説されており、「警告するくせに、本当は役立たずなんだ」と、飲んでいたコーヒーを吹き出しそうになりました (^_^; 。

 第三幕は前奏曲から気迫のこもったもので、トリスタンのドラマチックなアリアからイゾルデの『愛の死』まで、期待通りの音楽を聴かせていただきました。

 マルケ王到着の場面では、ワーグナーが指示した「アルペンホルンのように木で出来たトランペット(倉田京弥さんの自作)」が演奏されまして、演奏は難しそうだったけれど、ワーグナーが望んだのはこういう音だったのか、とその努力に感謝しながら聴かせていただきました。

 アマチュアではトップレベルのオーケストラとされる新交響楽団ですが、管楽器は各幕ごとにメンバーが交代しており、層の厚いところを見せつけました。
 良い指揮者に導かれたアマチュアオーケストラからは、プロ以上の熱気のある演奏が聴けるものです。
 演奏するメンバーにとっても一期一会ですからね。

 帰り着いた名古屋駅では、もう年末のイルミネーションが始まっていました。

 
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