メットライブビューイング2008-2009 プッチーニ作曲 《蝶々夫人》
 2020年2月8日(日)6:30PM ミッドランドスクエアシネマ

「REVIEW20」に戻る  ホームページへ  《蝶々夫人》観劇記録
 
 
 メットライブビューイング
 プッチーニ作曲《蝶々夫人》
 2020年2月8日(日)6:30PM
 ミッドランドスクエアシネマ

 指 揮:ピエール・ジョルジョ・モランディ
 演 出:アンソニー・ミンゲラ

 蝶々さん:ホイ・ヘー
 スズキ:エリザベス・ドゥショング
 ピンカートン:ブルース・スレッジ
 シャープレス:パウロ・ジョット
 坊や/ブラインド・サミット・シアター

 藤原歌劇団《リゴレット》に続いて、本日2本目メット《蝶々夫人》の観劇です。
 映画「イングリッシュ・ペイシャント」の監督、故ミンゲラのプロダクションは実に幻想的な美しい舞台で、メットの看板演目となっています。
 今まで、パトリシア・ラセット、クリスティーネ・オポライスをタイトルロールとする公演が、NHKやWOWOWで放映されています。

 今回夜の放映に飛んでいったのは、スズキにエリザベス・ドゥショングの名前を見つけたから。
 エリザベス・ドゥショングはエリザベス・デションの名前で、ロイヤルオペラハウスのDVD、そしてグラインドボーン音楽祭のDVDのスズキ役を勤め、大喝采を浴びています。
 深みのある豊かな歌声と、細やかな演技で、僕は彼女こそが世界一のスズキだと確信しています。

 『ある晴れた日に』のアリアは、「ピンカートンが帰ってこないのではないか?」と心配するスズキに「お聞きなさい」と歌われるアリアです。
 海外の演出では、当然ながら、このアリアはスズキに向かって歌い始められています。

 ところが日本のほとんどの演出では、「お聞きなさい」と言った蝶々さんはスズキにお尻を向けて、舞台中央に進み出て、観客に向かってこのアリアを歌い始めるのです。
 屋根に登って歌う演出もありました (@o@)。
 これはオペラではなく、リサイタルでしょう。
 蝶々さんの一言一言に対するスズキのリアクションがあればこそ、蝶々さんの悲劇が深いものとなるのです。

 ドゥショングは幕間のインタビューで次のように語っています。

 スズキは黙っているときが最も雄弁だと思う。
 あの表情、あの眼差し、さり気なく逸らす視線。
 その時こそ語っている。

 蝶々さんがスズキに対して歌えばスズキは歌が無くても適切なリアクションが出来、相乗効果でアリアに対する感動も高まるわけです。
 
 2019年4月27日(土)藤原歌劇団公演の休憩時間に、僕は勇気を奮い起こして、総監督に「『ある晴れた日に』はスズキに対して歌われる曲ではないですか?」と聞いてみました。
 答えは「あの曲は観客に対して歌われる曲です」とのことで、僕は愕然としました。

 こういう方々は、海外の映像などを見ていないのでしょうか?
 日本の誤った演出の固定観念を、改める必要があると思います。

 蝶々さん役のホイ・ヘーは中国人。
 あまり美人とは言えませんが、歌唱と演技に惹き付けられました。

 ピンカートンのブルース・スレッジはアンドレア・カレの代役で、2日前に出演を言われたそうです。
 声は良いけれど、立ったままで、演技不足は仕方の無いことでしょうか。

 シャープレスのパウロ・ジョットは問題の無い出来でしたが、プラシド・ドミンゴの代役と言われれば、歴史に残るであろう舞台を見損ねた、悔しさが沸いてきます。

 カーテンコールについて書いておけば、シャープレスにはブーイングが浴びせられました。
 ピンカートンに散々苦労させられたあげくのブーイングは気の毒かと思いました。

 スズキの番ではもちろんの大喝采。
 だんだん客席が立ち上がります。

 そして、ピンカートンに対するブーイングは強烈な物でした。
 このブーイングはピンカートンという卑劣な人間に対するブーイングであり、歌手その人に対するブーイングではありません。
 2日間で代役を果たしたスレッジに対して観客は拍手をしながら、ピンカートンに対してはブーイングを叫んでいるのです。

 かつて見たメットライブビューイング《蝶々夫人》パトリシア・ラセット、クリスティーネ・オポライス版でも、同じブーイングがありました。
 同じブーイングは、ロイヤルオペラハウスのDVD、そしてグラインドボーン音楽祭DVDのカーテンコールでも見られました。

 グラインドボーン音楽祭のピンカートンがブーイングに対して「もっともっと!」とブーイングを要求して、帽子を取って、にやりと笑ったのは格好良かったですね。
 スカラ座のTV放映やヴェローナ野外オペラのDVDでは、ブーイングに気がつきませんでした。
 このブーイングはアメリカとイギリスで見られる、お約束、ウィットのような物かなと思っています。

 最後に舞台中央から蝶々さんが現れると、ブラヴァの大喝采。
 このような素晴らしい蝶々さんを見ると、僕でもピンカートンに対する怒りがフツフツと沸いてくるわけです。
 そして近い将来に、日本人女性の蝶々さんがメットの舞台に現れることを期待してしまいます。

 僕はこのオペラが大好きでいろいろ映像を見ていますが、皆さまにお勧めしたいのは、エルモネラ・ヤオの白塗りに違和感はあるものの、パッパーノ指揮するロイヤルオペラハウスのDVDです。