ウィーン紀行(19) 04.1.1(木)
ヨゼフィーヌム・医学史博物館 (ビルロートを巡って)

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◇ ヨゼフィーヌム・医学史博物館

 ウィーン大学があるショッテントアからヴェーリンガーシュトラーセを歩いていくと、左手にヨゼフィーヌム・医学史博物館が建っています。
 「ヨーロッパ医科学散歩」(石田純郎・考古堂)によれば、ヨーゼフ2世によって建てられた陸軍の軍医養成学校で、旧総合病院の一角に当たります。
 前庭に建っているのは健康の女神ヒュゲイアの像です。

 詳しくはこちらへ。

ヨゼフィーヌム 健康の女神ヒュゲイアの像
  ヨーゼフ2世


◇ 世界初の胃切除術成功

 この日は正月で休館していましたが、僕はかつてこの建物に入ったことがあります。
 奥の方にホルマリンに入れられた標本が二つありまして、一つがビルロートが世界で初めて胃切除術に成功した摘出標本で、もう一つが患者が再発で死亡したときに剖検で採取された標本だと解説されていました。

左が剖検時に採取された標本、右が手術時に切除された標本
テオドール・ビルロート 手術中のビルロート


 患者の名前は「ビルロートの生涯」ではマリア・テレジア・ヘラーとされています。
 著者の武智秀夫先生から御教示いただいたところでは、 ビルロートの第一報(Wiener Medizinische Wochenschrift,1881)には、患者の名前は書かれていないそうです。
 武智先生は Wiener Medizinische Wochenschrift,1881 の Notizen(覚え書き)というコーナーで「マリア・テレジア・ヘラー」という名前を見つけ出されたそうです。

 「外科」(29:1966年)に連載された堺哲郎先生の「テオドール・ビルロートの生涯」104ページによれば、患者は43歳の女性で、2ヶ月前から嘔吐が続きこの6週間ほど何も食べられないという訴えで受診しました。
 腹
部に腫瘤を触れ、典型的な胃癌の症状です。
 1881年1月29日、クロロフォルム麻酔にて胃摘出術が行われました。
 経過は順調で、患者は2月3日に一般病棟に移りました。

 ビルロートは3月にブラームスの第2回イタリア旅行に同行しました。

 4月下旬に、患者は癌の再発のため食事が摂れなくなり、5月24日死亡しました。
 
世界で初めての胃切除術成功とブラームスが微妙に絡んでいるところが僕にとっては興味深いところです。
 

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