南木佳士の故郷 嬬恋村三原を回る (5)スイッチバックと「風」の墓 2007年9月12日(水) |
草軽電鉄が南木さんの家のすぐ下を通っていて、祖父がその運転士であった事は、南木さんの作品に繰り返し書かれています。 『ふいに吹く風』の「ハコベ」には、「晩春になると、祖母は畑の下に立って手を挙げ、電車を止めた。刈り入れた麦を載せてもらうためである」と書かれています。 南木さんの家の下を通る旧草軽電鉄の道をまっすぐ行くと、道は行き止まりになります。 かつてはここに草軽電鉄のスイッチバックがありました。 スイッチバックとは急勾配を登るため作られた折り返し式の鉄道路線です。 そしてこのスイッチバックは今では墓地となっています。
平成7年(?)の夏、南木さんは村が分譲したスイッチバックの墓地を買い、その墓に「風」の一文字を書きました。 この墓についても、彼の作品で繰り返し書かれていますが、『ふいに吹く風』の「墓と家」がもっとも詳しいでしょうか。 「ふいに吹く風」は南木さんの小説の変わらぬテーマであり、「死はふいに吹く風のように、いつでも、誰にでも訪れる」ということだそうです。 僕は「神様の思し召し」だと思っています。 「気まぐれな神様の思し召しは、いつでも、誰にでも訪れる」ってね (^_^ゞ。 この墓の納骨室には、母、祖母、祖父たちの墓の土を入れ、平成10年(?)2月に死亡した父親の遺骨も納められています。 正面には「風」の一文字が彫られ、右側の墓誌には戒名だけが書かれていますので、この墓が誰の墓なのか分からなくなる日も来るのではないでしょうか。
南木さんは『家族』の後書きで、これまでの自作から最も自信のある作品を選べといわれたら、私はためらわず『冬物語』の「スイッチバック」をあげる、と書いています。 スイッチバックの夕暮れ、満開の桜のトンネルを亡き母と一緒に列車で通った想い出は限りなく美しい。 僕もこの作品(と『医学生』)はぜひお薦めしたいと思います。 |