ミュージカル 《サンセット大通り》
2012年6月17日(日)5:30PM 赤坂ACTシアター

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 ロンドンのアデルフィー劇場で《サンセット大通り》を初めて見たのは1995年6月8日。
 この時のノーマ・デズモンドがエレイン・ペイジで、この人は僕が見たミュージカル俳優の中で、最高の人でした。
 《エヴィータ》のオリジナルキャスト、《CATS》のグリザベラ(メモリーを歌う猫)のオリジナルキャストで、当時47歳だったようです。
 僕はすっかり彼女に夢中になって、彼女のCDやビデオを海外通販で買ったものです。

 このミュージカル自体も大変に濃厚にロマンチックな作品で気に入って、1996年5月2日にブロードウェイのミンスコフ劇場(ベティ・バックリー&アラン・キャンベル)1997年4月15日にはドイツのヴィースバーデンで見ています。
 ヴィースバーデンの日は上岡敏之さんの《リゴレット》(ヘッセン州立劇場)とバッティングしており、しばし悩んだものです。

 このミュージカルの売り物は第一幕最後の舞台装置。
 ノーマの屋敷の巨大なセットがそのまま上に上がり、下にバーで歌い踊る人々が出てくる場面。
 このために制作費が巨大になり、劇団四季では上演を諦めたと会報に書いてあった記憶があります。

 その《サンセット大通り》が日本で初演されるとのことで、赤坂ACTシアターまで行ってきました。
 考えてみれば今まで外国語ばかりで、詳しい内容も知らずに見ていたのか (^_^ゞ。

 ミュージカル 《サンセット大通り》
 6月17日(日)5:30PM 赤坂ACTシアター
 作曲:アンドリュー・ロイド=ウェバー
 演出:鈴木裕美

 
ノーマ・デズモンド:安蘭けい
 ジョー・ギリス:田代万里生
 マックス:鈴木綜馬
 ベティ・シェーファー:彩吹真央
 セシル・D・デミル:浜畑賢吉

 原作は1950年制作、ビリー・ワイルダー監督の映画(主役:グロリア・スワンソン)。
 売れない脚本家のジョー・ギリスが借金取りに追われて車で逃げ込んだのは「サンセット大通り」にある豪邸。
 そこには往年の大女優ノーマ・デズモンドが住んでいた。
 彼女は銀幕へのカムバックを夢み、ジョーの力を借りて《サロメ》の台本を完成させようとする。
 そして、やがてジョーはノーマの若き愛人となって。。。

 ノーマ・デズモンドの安蘭けいさんは若く美しすぎて、落ちぶれた老女優にはやはり無理があるでしょう。
 舞台でノーマは50歳だと言っていましたが、安蘭さんは42歳なのかな。
 プログラムに書いてあるけれど、ホリプロが上演権を得たときに、集客力のあるノーマとしては彼女しか思いつかなかったようです。

 最後に彼女が白い鬘をかぶって階段を降りてきます。
 これは今までは髪を染めて若く見せていたけれど、実は年寄りだったという設定なのですが、僕にはマリリン・モンローが出てきたように見え、かえって美人になって、これは不味いと思いました。
 そういえばドイツ公演では、この場面でクスクス笑い声が聞こえてきたものでした。
 わざとらしい場面だから、もう少し短くした方が良いと思います。

 ロンドンで見た時に日本上演のノーマを考えてみたのですが、当時は中尾ミエさんが良いのかな、と思いました。
 当時、草笛光子さんがノーマをやりたがっているという話を聞いたことがあり、彼女くらいの年齢の人にふさわしい役かとも思いました。
 安蘭さんも再演を続けられて、10年、20年すれば、見た目も理想のノーマになられることと思います。
 しかし今どきの50歳って皆さま若々しくて、老女優ではありませんよね。
 松田聖子さんが50歳だそうで、彼女がノーマ・デズモンドを演じても老女優には見えないでしょう?

 田代万里生さんのジョーはぴったり役に合っています。
 昨日が初日で今回がまだ3回目の公演だそうで、慣れるに従って、もっとアドリブなどを入れることはできるでしょう。
 最後に撃たれる場面では、ピストルの音に合わせたリアクションが必要でしょう。
 刑事ドラマを参考にされたら良いと思います。
 田代さんのお父上はテノール歌手の田代誠さんで、マリオ・デル・モナコから名前を付けられたそうです。

 その他のキャストの方も好演で、レベルの高い日本初演かと思いました。

 鈴木裕美さんの演出には感心しました。
 大きな階段が回る舞台で、人の出入りもスムーズです。
 問題の第一幕最後は、海外の舞台で上下に分かれていたノーマの屋敷とバーを前後において、海外よりずっと安上がりで納得のできる舞台を作っておられました。

 ただ、ジョーがベティに舞台裏を案内するラブシーンでは、海外で見たそびえ立つ摩天楼がくるっと回って舞台裏になる演出が、舞台のマジックを見るようで好きでしたね。