プッチーニ作曲《蝶々夫人》 藤原歌劇団創立80周年記念公演
2014年6月28日(土)3:00PM 新国立劇場・オペラパレス
指 揮:園田隆一郎  演 出:粟國安彦

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 今日は土曜日ですが、笛田博昭さんが藤原歌劇団のピンカートンを歌われるとのことで、仕事を抜け出して、新幹線で初台に向かいました。
 新宿駅の乗り継ぎが難しくて、いつも違う出口に出てしまいます (^_^ゞ。
 
 プッチーニ作曲《蝶々夫人》
 藤原歌劇団創立80周年記念公演
 2014年6月28日(土)3:00PM
 新国立劇場・オペラパレス

 指 揮:園田隆一郎
 演 出:粟國安彦
 演出補:松本重孝
 美 術:川口直次
 衣 裳:緒方規矩子
 管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
 合 唱:藤原歌劇団合唱部

 蝶々夫人:山口安紀子
 ピンカートン:笛田博昭
 シャープレス:谷 友博
 スズキ:松浦 麗
 ゴロー:小宮一浩
 ボンゾ:安東玄人
 神官:坂本伸司
 ヤマドリ:江原 実
 ケート:吉村 恵

 今回の公演の特徴は、1990年1月に48歳という若さで逝去された粟國安彦さんによる日本風の美しい舞台。
 2014年4月23日に観劇した栗山昌良演出による二期会公演《蝶々夫人》と共に文化遺産として後世にまで残しておくべき舞台でしょう。

 ロビーに舞台装置の模型が展示されていたので、見に行ってきました。
 そうすると不細工な字で「撮影禁止」と貼り紙が貼られているんですね。
 舞台装置の見本を想い出に撮影することに何の不都合があるのでしょう?
 この公演は映像化される予定は無いそうで、せめてもの舞台装置まで撮影禁止とはね。
 文化遺産として後世にまで残しておくべき舞台なのに、何の画像も僕には残らないんです。

 最初に登場した笛田博昭さんの輝かしい美声に、まずは一安心。
 園田隆一郎さんの指揮は立派なものでしたが、二期会公演のダニエーレ・ルスティオーニの方が、新しい音楽を目指しているような気がしました。

 結婚式の親族紹介で、歌詞に蝶々さんの母親が出てくるのですが、誰が母親なのか分かりにくい。
 蝶々さんに襲いかかるボンゾを突き飛ばした人かと思いましたが、最初に挨拶でもさせるなど存在感を出しておけばいいのに。
 しかし、これほど蝶々さんの母親の存在を際立たせる演出は初めて見たような気がします。

 今回の演出は全体に演技がコミカルで、ボンゾは蝶々さんを蹴飛ばそうとして、舞台中央で大きく転ぶし、いろいろ細かい配慮に「なるほど!」と感心することが多かった。

 山口安紀子さんの蝶々さんは少し声量が足りないかも知れません。
 第一幕の最後の二重唱で最高音を伸ばす部分、ピンカートンに早くキスをさせて、音を短くしたのは蝶々さんに対する配慮でしょうか?

 しかし、第二幕になってからは、俄然存在感が出てきました。
 僕は「ある晴れた日に」はスズキに向けて歌っている(納得させようとしている)歌だと思っているんですが、スズキの方を見ようともしない蝶々さんも良くおられます。
 今回はスズキの左隣りに座布団を引いて、スズキに語りかける。
 時々目が合ったりもします。
 これだとスズキも蝶々さんに対する気持ちを、リアクションとして出しやすいでしょう。

 『ある晴れた日に』の字幕が、二期会公演では「ある日」になっていました。
 愛知トリエンナーレ《蝶々夫人》の講演会で、講師の小畑恒夫先生に「ある晴れた日」(un bel di)の「bel di」は「晴れた日」ではなく、「佳き日」だと教えていただきました (@o@)。
 雨の日でもピンカートンが帰ってくる日は「佳き日」ですから、これからの上演はこの字幕になっていくのでしょうか?
 アリアの名前も『ある佳き日に』になるのかな?

 と思っていたのですが、今回の藤原歌劇団は歌詞に『ある晴れた日に』を使っていました。
 プログラム解説は小畑恒夫先生でしたが『ある晴れた日に』の部分は詳しく取り上げておらず、スルリと通しておられました。
 しかし、内心忸怩たるものがあるのではないかと推察しました。

 第二幕のケートが蝶々さんに見つかる部分。
 僕はいつも「なぜケートは見つかるまでウロウロしているしているのだろう?」と不思議に思っていました。
 今回の演出では、急に奥から出てきた蝶々さんに見つからないように、シャープレスがケートを上手の物置(?)に隠すんです。
 そしてピンカートンを探すために、蝶々さんが奥に移動したチャンスにケートを逃がそうとするのですが、戻ってきた蝶々さんとばったり出会ってしまう。
 そして、「あの女の人は誰?」となるわけで、実によく考えられた緊迫した動きだと感服しました。

 最後にスズキに対する蝶々さんの「遊ばせておやり、お前も一緒に遊んであげて 」という言葉に蝶々さんの自害の決意を察したスズキは、炸裂するティンパニと共に「私もここにおります」と必死に訴えるのですが、蝶々さんはスズキの訴えを二回にわたって強く拒否します。
 やむを得ずスズキは蝶々さんに深くお辞儀をして退場し、蝶々さんに合わせるため、子供を連れて戻ってくるわけです。

 演出の粟國安彦さん、演出補の松本重孝さん、美術の川口直次さんの3人が創り上げた舞台は、歴史文化遺産として残されるものでしょう。
 僕なんか、今でももう忘れかけているいるんですから (^_^ゞ。

 栗山昌良さんの二期会公演も素晴らしい舞台でしたが、演技に関しては粟國安彦さんの藤原歌劇団の方が、寄り深い感銘を受けました。
 映像化を強く望んでいます。