ウィーンミュージカル 《エリザベート》 (9)
◇ 安らぎのない年/影は長くなる
 
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◇シーン7 安らぎのない年

 『安らぎのない年』

 エリザベートが最初に大西洋のマデイラ島に逃げ出したのは1860年、30歳の時。
 後の話になるが、ハプスブルグ最後の皇帝であるカール一世(フランツ・ヨーゼフの甥)は第一次大戦敗戦で皇位を追われ、1922年、このマデイラ島で貧困のうちに病死している。

 エリザベートはマデイラ島から、ブダペスト、コルフ島、イングランドと旅に明け暮れ、ウィーンには、ほとんど寄りつくことが無い。
 フランツ・ヨーゼフはウィーンから旅先の彼女に手紙を書き続ける。
 『ママ(ゾフィー皇太后)が死んでから、私の天使よ‥‥ルドルフも28才になる‥‥そして彼は私を大変悩ませる‥‥』

 やがて舞台はイングランドのノーサンプトン州タウセスターの領主館 Eaton Neston での狩りの場面となる。
 エリザベートは馬に乗り、茂みを抜け、堀を通り、川や柵を越えて疾走する。
 彼女の馬は壁の石に接触して、そして地面に激しく転倒した。

 すぐ後続のものが青くなって飛んできた。
 そして、そこで彼らは笑った。
 O Got! 彼女は(無事に)飛び越えていた!

◇シーン8 トートの馬車の上で

 舞台にはデフォルメされた巨大な馬車が、壊れて横たわっている。
 この黒い馬車が出てくるのは3回目。
 エリザベートの娘ゾフィーの死の場面と、幼いルドルフが歌った『ママどこにいるの』の場面。

 前にも書いたが、この馬車はたぶんシェーンブルン宮殿の馬車博物館にある、黒塗りの霊柩馬車をイメージしているのだろう。
 この霊柩馬車で、ルドルフ、エリザベート、フランツ・ヨーゼフは、カプツィーナー教会のカイザーグルフト(王宮墓所)まで運ばれたのだ。

 場面は1888年の秋。
 ルドルフがマイヤーリンクで自殺(30才)したのは1889年1月30日。

 『影は長くなる』

 トートは『ルドルフが自分を必要としているのでやって来た』と歌う。
 政治や国際情勢について危機感を持つルドルフは、何もしない父フランツ・ヨーゼフに対し不満を持つ。

 『影は長くなる、今は12時5分前! 時間はほとんど残されていない』
 トートにそそのかされて、ルドルフはクーデターまで考えるようになる。

 『影が長くなる』とは時間が無駄に過ぎていくことを、『12時5分前』は残された時間がほとんど無いことを言っているのであろう。

 この場面、ルドルフの運命は完全にトートの手に握られている。
 後ろからトートに抱かれ、振り回されるルドルフは、まるで操り人形のようだ。
 この二重唱、上のパートを歌っているのは(ヴォーカルスコアによれば)、もちろんトート。
 
 
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