ウィーンミュージカル 《エリザベート》 (10)
◇ あなたみたいに コルフ島の別荘
 
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◇シーン9 コルフ島の別荘のロッジア(涼み廊下)

 これはスタジオ録音CDに無い場面。
 薄暗い舞台のエリザベートだけに、スポットが当たっている。
 彼女は降霊術を使い、ハインリッヒ・ハイネの霊を呼び出そうとしている。

 エリザベートの伝記を読んでいると、この時期、ホメロスとハイネが彼女のお気に入りだったそうだ。
 だからハイネの文学的・政治的な立場を知っておかないと、この場面とか『HASS!』の意味するところが本当には理解できないような気がする。

 なかなかいい資料が見つからないんだが、分かった範囲で書いてみると‥‥
 ハインリッヒ・ハイネは1797年、デュッセルドルフにユダヤ人商人の子として生まれた。
 右の写真がデュッセルドルフの生家だ →。

 ロマン主義の詩人として有名な彼は、1831年『アウグスブルグ一般新聞』の記者としてパリに移り、そこで自由主義者としてドイツ反動と戦うべく筆をふるい、反ユダヤ主義とも戦った。
 1832年の暴動(レ・ミゼラブル/第2幕)についても、感動的な記事を送っているそうだ。
 彼は1856年2月に(多分パリで)他界した。
 エリザベートがこのような人物を贔屓にするということは、后妃として大変な問題があったわけだ。

 『あなたみたいに』

 さて、ミュージカルに戻って、
 降霊術でハイネの霊を待っているエリザベートに、父親のマックス公爵の声が聞こえてくる。
 『なぜお前は死人とばかり話しているのだ。 もっと幸せになるように努力しなくては』とマックス公爵はエリザベートに忠告する。
 『それなら、私は生きている人と何を話したらいいの? すべてが吐き気を催すわ!』と彼女はかたくなに父親の忠告を拒む。
 『子供の頃夢に見たチターを抱えたジプシーのように自由な生活‥‥しかしもう遅すぎる‥‥私はあなたのようにはなれない』

 この『あなたみたいに』という曲は、このミュージカルの最初、ポッセンホーフェン宮殿で、少女エリザベートと父親マックス公爵との間で歌われる微笑ましい場面の音楽だった。
 そして、ここで歌われている歌詞は第1幕と同じものだ。
 しかし、もうあの明るさはない。
 マックス公爵の声には不気味なエコーがかかっている。

 この曲のポイントは最後の『アデュー・シシ!』というマックス公爵の別れの言葉。
 このセリフは第一幕の『あなたみたいに』と同じだが、この場面ではエリザベートの最大の理解者であった父親の死を暗示している。
 だから、この場面が1888年11月15日の出来事だと分かるわけだ。

 この時期エリザベートは心の安らぎを求めて、たびたびイオニア海にあるコルフ島(ケルキラ島)に滞在した。
 僕の教科書であるジャン・デ・カール『麗しの后妃エリザベト』には、彼女が滞在したのはガストゥリのブライア荘だと書かれている。
 しかし、僕の現地取材(2014年1月2日)では、モンレポ宮殿(ギリシャ王の夏の離宮)だということだった。

 この頃からエリザベートはこの島に別荘を建てることを決意し、有名なアキレイオン荘が完成するのは、この後1891年のことになる。
 
 
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