名古屋尾張地域市民オペラ振興会 《ナクソス島のアリアドネ》(1) 2006年11月17日(金)6:30PM 名古屋芸術創造センター |
《ナクソス島のアリアドネ》は僕にとって特別のオペラです。 あれは1980年8月19日、僕はザルツブルク音楽祭でこのオペラを見たんです。 この年はベームのザルツブルグにおける最後のシーズンとなった年であり、グルベローヴァが「ナクソス島のツェルビネッタ」としてセンセーションを巻き起こした年でしたが、僕がノックアウトされたのはディーター・ドルンの演出。 ロココ風の装飾で彩られたシューボックススタイル(長方形)の小ホールを巧みに利用し、第二幕では客席の我々が祝宴の客となってしまうという秀逸な演出はベームのお気に入りでしたが、この舞台で僕はオペラ演出の魅力に取り憑かれてしまったんです。 しかし、まあ冷静に考えれば、このオペラはマイナーなオペラでしょう。 それが、地元名古屋で実力派のメンバーを海外からも集め、4回もの公演をするというのですから、その無謀さには驚きました。 主体となっているのはNPO法人NCO(名古屋尾張地域市民オペラ振興会)。 その心意気は良しとするのですが、この公演のチケットは出演者もしくは後援者にノルマとして割り当てられて、一般にはほとんどPRされていない。 東京まで遠征するような名古屋のオペラファンがこの公演のことを知らないんですから、どれほど観客が入るか心配になってしまいます。
リヒャルト・シュトラウス 《ナクソス島のアリアドネ》 2006年11月17日(金)6:30PM 名古屋芸術総合センター 指 揮:クリスティアン・ハンマー (ロストック国民劇場第一指揮者) 演 出:岩田達宗 管弦楽:名古屋二期会管弦楽団 公演総監督:山田信芳
岩田達宗演出のコンセプトは、ナゴヤのお金持ちがスポンサーとなって、名古屋芸術創造センターに客を招き、オペラ《ナクソス島のアリアドネ》を上演するというもの。 第一幕は芸創センターの舞台裏で、各キャストの名前が書かれた楽屋がある。 それぞれの楽屋に「カワイ楽器製作所」「グローバルビューティー」「エビスビール」ののれんが架けられている。 スポンサーであろうか。 執事長はマイクの声だけで、《コーラスライン》や《オペラ座の怪人》を思い出してしまう。 第一幕はオペラ《ナクソス島のアリアドネ》上演前のごたごたで、台本にも音楽にもまとまりがないような気がする。 一番重要な役目を与えられているのは作曲家だろうが、相可佐代子さんはこの幕を盛り上げるには少し力不足かと思った。 第二幕は芸創センターで上演されるオペラ《ナクソス島のアリアドネ》。 舞台の両脇には大きな岩がある。 アリアドネの山本佳代さんはアリアドネの哀しみが出ていて良かった。 バッカスの笛田博昭さんは、一部不安定な部分もあったかと思ったが、それでもその歌声は会場を圧倒した。 僕はもっと素晴らしい笛田さんを聴いたことがあるが、初めて笛田さんを聴いたマニアックなオペラファンが驚いていたので、まあ良しとしよう。 第一幕の笛田さんの控え室には「テノールバカ」と書かれていて、こういう単純な役柄は本当にピッタリ (^_^ゞ。 それだけに、来年1月の藤原歌劇団《ラ・ボエーム》(岩田達宗演出)のロドルフォが、勝手に応援団としては本当に心配だ。 ツェルビネッタの飯田みち代さんは1994年に名古屋二期会 《ねじの回転》の家庭教師を聴いて以来のファン。 京都大学卒インテリ美人の飯田さんには、ツェルビネッタのような軽い女の子はキャラクターが合っていないと思う。 無理に役を作っている感じがしたが、それでも一生懸命がんばっていたし、長大なアリアでは盛大な拍手を受けていた。 道化師たちに不満はないが、ニンフたちの三重唱(大好き)は、もっと美しく歌っていただきたかった。 最後に音楽教師が出てくる舞台転換があったが、田辺とおるさんには申し訳ないが、これは不要かと思った。 指揮のクリスティアン・ハンマーはロストック国民劇場第一指揮者だそうだが、良い指揮者だと思った。 総合的に考えて、この舞台はなかなかレベルが高い、期待通りの公演だ。 明日2回、明後日1回の公演が予定されているので、上演機会の少ないオペラでもあり、ぜひ観劇されることをお奨めしたい。 |