東京二期会オペラ劇場 《イル・トロヴァトーレ》
2016年2月17日(水)6:30PM 会場: 東京文化会館 大ホール

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 世評に高いアンドレア・バッティストーニの指揮を、一度見てみたいと思っていました。
 彼が名古屋に来てくれることは無いでしょうから、《イル・トロヴァトーレ》という絶好の機会に、遠征してみました。

 ヴェルディのオペラはストーリーがおかしくて、あまり好きではありません。
 とりわけひどいのが《イル・トロヴァトーレ》で、早くに見るのを止めてしまいました。
 しかし最近になって、「《イル・トロヴァトーレ》はパロディなんだ」と思うことにしまして、そうするとアズチェーナの「かあさん、仇は取ったよ」という唐突なフィナーレも微笑ましく見ることが出来るわけです。
 この境地に達しますと、《イル・トロヴァトーレ》は次々と現れる魅力的なメロディに溢れた、素晴らしいオペラになるわけです。

 東京二期会オペラ劇場《イル・トロヴァトーレ》
 パルマ王立歌劇場とヴェネツィア・フェニーチェ劇場との提携公演

 2016年2月17日(水)6:30PM
 会場: 東京文化会館 大ホール

 指揮:アンドレア・バッティストーニ
 演出:ロレンツォ・マリアーニ

 レオノーラ:並河寿美
 マンリーコ:エクトール・サンドバル
 ルーナ伯爵:上江隼人
 アズチェーナ:清水華澄
 フェルランド:伊藤 純
 イネス:富岡明子
 ルイス:今尾 滋
 老ジプシー:三戸大久
 使者:吉田 連
 合 唱: 二期会合唱団
 管弦楽: 東京都交響楽団

 28歳のバッティストーニの指揮は、世評どおりに素晴らしいものでした。
 客席からは上半身が見え、そのしなやかな動きが実に音楽的です。
 これぞイタリアオペラ!ということでしょう。

 舞台装置は奥に投影される大きな月だけ。
 床は黒いビニール?で、このビニール?に費用はどれ位かかっているのでしょうか?
 全幕が夜の出来事ということで、すべての幕が暗闇で演じられました。

 プログラムには「イタリアにおけるオペラと経済の関係」という記事が出ておりまして、助成金を減らされたオペラハウスは苦境にあるそうです。
 その代表として、このようなお金のかかっていない(と思われる)舞台を持ってきたのでしょうか?
 考えてみれば床のビニール?はなくてもこの舞台は成立するので、その場合の大道具代はお月様の投影費だけですね。
 もっと考えれば、お月様も無くてもいいかな?

 マリアーニの演出は合唱を団体で動かすなど、それほど感心しませんでした。
 しかし、パルマやヴェネツィアの人もこの舞台を見ているのかと思うと、あまり贅沢は言えませんね。
 大きな月に軍隊が並ぶ第一幕は、ペーター・ホフマンの《ローエングリン》を思い出しました。

 キャストでは女性軍が良かった。
 レオノーラの並河寿美さんを初めて意識したのは、05年9月4日堺シティオペラの《蝶々夫人》
 あれから10年ですか、立派なプリマドンナになられたものだと思いました。
 特に後半が素晴らしかったですね。

 もっと驚いたのがアズチェーナの清水華澄さん。
 高い音から低い音までよく響き、まだお若いのに老け役がぴったりでした。
 カーテンコールでは清水さん(とバッティストーニ)に拍手が一番多かったですね。
 清水さんが大変面白い方だということは2013年1月19日に見た『大作曲家ワーグナーの生涯Ⅲ』というレクチャーコンサートで存じ上げていましたが、今日のカーテンコールではなかなか出てこない演出家を引きずり出し、舞台中央で抱きついて場を盛り上げていました。

 マンリーコのエクトール・サンドバルはちょっと線が細かったでしょうか。
 聴かせどころの「見よ、恐ろしい炎を」の「ハイC」に至るフィナーレでは、コーラスの最前列の人がマンリーコのパートを歌い、サンドバルは「ハイC」のみに専念していたように見えました。
 これがイタリア式でしょうか? 僕の見間違いでしょうか?
 
 2014年4月10日の銀座オペラ《イル・トロヴァトーレ》で、笛田博昭さんはこのアリアを2回歌われたそうです。
  2011年11月13日に見た関西歌劇団の清原邦仁さんも、素晴らしいマンリーコでした。

 フェルランドの伊藤純さんは響きのあるバスかと思いました。