ジョルダーノ 《アンドレア・シェニエ》全4幕
名古屋テアトロ管弦楽団/合唱団 第2回公演
2019年6月16日(日)2:00PM 東海市芸術劇場 大ホール

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 名古屋テアトロ管弦楽団/合唱団 第2回公演
 ジョルダーノ《アンドレア・シェニエ》全4幕

 2019年6月16日(日)2:00PM
 東海市芸術劇場 大ホール

 指 揮:佐藤 正浩
 舞台監督:礒田有香

 アンドレア・シェニエ:宮崎智永
 マッダレーナ:上井雅子
 ジェラール :須藤慎吾
 コワニー伯爵夫人:相可佐代子
 ベルシ :大田亮子
 ルーシェ:中原 憲
 密 偵:大久保 亮
 修道院長:田中 準
 マテュー:上田 賢
 プレヴィル:河津秀司*
 マデロン:永田真弓*
 フーキエ・タンヴィル:西 祥濃*
 デュマ:芳賀俊一郎*
 家令/シュミット:北山太朗*
 *は団員ソリスト

 管弦楽:名古屋テアトロ管弦楽団
 合 唱:名古屋テアトロ合唱団
 子どもたち:東海児童合唱団​

 まず素晴らしかったのは佐藤 正浩さん指揮するオーケストラ。
 アマチュアなのにミスはチェロのソロだけ。
 難しそうな曲なのに、技術的レベルが高く、熱い演奏を聴かせていただきました。

 合唱団は当時のパリ民衆の衣装をして、出番になるとオケの後ろの階段に登場し、演技をします。
 これが照明も利用して、アイディアに溢れたものでした。

 最初に驚いたのは1幕の最後で貧民たちがいつの間にか合唱の最後列にいたこと。
 そして出番が終わると消えてしまい、どのように演出されているのか僕には分かりませんでした。
 フィナーレの場面で分かったのですが、この劇場では後ろの壁が上下するんですね。

 第2幕では新聞売りの少年達が舞台を駆け回るし、中でも感心したのは第3幕のマデロンの場面。
 マデロンは合唱団の中から孫のロジェ・アルベルトと共に現れます。
 オペラのマデロンはお婆さんなのに、今回は団員のお姉さん。
 最初の声を聴き、そのか細さに、どれほど緊張しているだろうと推察して、「オーケストラは大きくしないで」と祈って聴いていました。
 
 ロジェ・アルベルトは特に演技も無くそのまま退場しましたが、僕はこのマデロンのエピソードが大好きなので、別れにマデロンに抱きつかれたりしたら、泣いてしまうところでした。
 盲目のマデロンは合唱団の女性に手を引かれ、合唱団の中に戻りました。

 裁判の場面ではシェニエ以外の被告(前の財務省の役人、モンマルトルの修道女、イディア・レグリエー)も登場します。
 そしてイディア・レグリエーには子供が抱きついているのです。
 僕はこのような子供がいる演出を見た記憶が無いのですが、「ひとりの母親を救うのです 」という第4幕マッダレーナの歌詞とも合っており、本当に感心しました。

 昨年の《トゥーランドット》では、ソリストたちはオケと合唱の間に埋もれていましたが、今回は最前列に譜面台を置いて、出番になると現れるという常識的な流れです。
 しかし、ソリストたちはコーラスとは対照的に、歌うだけでまったく演技をしません。

 シェニエの宮崎智永さんは、聴かせどころの多いこのオペラで、充分タイトルロールの責任を果たしたと思います。
 来年は《トスカ》のカヴァラドッシだそうで、頑張っていただきたいものです。

 第2幕のマッダレーナは舞台に姿を現すときに、正体を隠すために顔を覆っていなくてはなりません。
 しかし上井雅子さんはスカーフなどで顔を隠すこともなく、素顔で現れました。
 オペラではマッダレーナがスカーフを脱ぎ、シェニエは女がマッダレーナであることを知って驚くのですが、その場面がおかしくなっています。
 そして金髪の女(マッダレーナ)を捜索している密偵の「金髪だ!」というセリフが、全く意味を持ちません。
 登場時から金髪なんですから。
 いくらコンサートオペラ形式とはいえ、これくらいのことがどうして出来ないのか、誰か知恵を出す人はいなかったのでしょうか?

 密偵といえば、大久保 亮さんは8月18日(日)に予定される愛知祝祭管弦楽団《神々のたそがれ》の主役、ジークフリートにキャスティングされています。
 本日聴いたところでは、線の細いリリックテノールかと感じました。
 三澤洋史さんのレッスンを受けておられるようですが、大きな舞台での主役の経験も無いはずで、大丈夫でしょうか?

◇​須藤慎吾さん
 今回の公演ではチラシに書かれれたジェラール役の末吉俊行さんが降板され、藤原歌劇団から須藤慎吾さんが急遽招聘されました。

 あれは2006年7月2日(火)
 僕はイタリア声楽コンコルソで笛田博昭さんが優勝する場面に立ち会いたいと、すみだトリフォニーホールまで遠征しました。
 ところがこの日の笛田さんは絶不調で残念な結果に終わり、シエナ大賞を獲得されたのが須藤慎吾さんでした。

 で、いつものようにホームページにレポートを書いたら、須藤さん御本人からメールを頂き、僕は仰天、恐縮してしまいました。
 そのメールにはイタリアから帰ったところで、これから日本でのポジションを確立していくところです、というようなことが書かれていました。

 今や須藤さんは藤原歌劇団の主要バリトンとしての位置を確立され、新国立劇場の6月公演《蝶々夫人》で、シャープレスを演じらたばかりです。
 本日のジェラールも素晴らしい歌唱で、有名なアリア「祖国の敵」は、本日一番の聴かせどころとなりました。

 須藤さんの名古屋での出演オペラは、7月27日(土)に《ホフマン物語》(宗次ホール)、来年の2月8日(土)には藤原歌劇団名古屋公演《リゴレット》(愛知県芸術劇場大ホール)が予定されています。
 《リゴレット》では須藤さんがリゴレット、笛田さんがマントヴァ公爵を演じられるとのことで、楽しみにしています。

◇アンドレア・シェニエ最後の夜
 台本には、第4幕の舞台はサン・ラザール監獄とされています。

 前にも何回か書いたことがありますが、僕は2011年5月3日(火)にマリー・アントワネットの独房を訪ねて、パリのコンシェルジュリーに行ってみました
 今年焼け落ちてしまったノートルダム寺院の向かいには、立派な最高裁判所が建っています。
 フランス革命の時代、今の最高裁判所のある場所に革命裁判所があったようです。
 そして右隣の「コンシェルジュリー」は革命裁判所の監獄となっていました。

 コンシェルジュリーで、マリー・アントワネットの独房を見てから、僕は「ジロンド党員の礼拝堂」という部屋に入ってみました。
 壁には一枚の絵が掛けられており、何となく説明を読んでいた僕は、中央の椅子に座る人物が、《アンドレア・シェニエ》のモデルである詩人アンドレ・シェニエ(1762~1794)その人であることに気が付いてビックリしてしまいました。

 今回のプログラムの中原憲さんの解説にはその絵が「サン・ラザール監獄」として載せられています。
 そちてこのプログラムの絵の方が横長なんですね。
 どちらかの絵が複製であることは間違いないですね。

 コンシェルジュリーの絵の題名は「恐怖政治の最後の被害者たち」といい、裁判から死刑を待つジロンド党の人々が描かれているようです。
 その中央に描かれるとは、シェニエはかなりの重要人物だったようです。
 そして、彼が最後の夜を過ごしたのは、サン・ラザール監獄ではなく、コンシェルジェリーだったと考えています。
 なぜならコンシェルジュリーに収容されたた囚人は隣の革命裁判所で死刑の判決を受け、そのまま馬車でコンコルド広場のギロチンに運ばれるようにシステム化されていたようなのです。

 1794年3月7日にシェニエは潜伏先で逮捕されました。
 そして、約5ヶ月間をサン・ラザール監獄で過ごしました。
 ひょっとすると、オペラのラストシーンはサン・ラザール監獄からコンシェルジュリーに送られる場面なのでしょうか?
 するとギロチンが出てくる演出(スカラ座など)はおかしなことになりますね。
 今回の公演ではシェニエとマッダレーナが手を取り合いながら舞台奥に進むと後ろの壁が上がり、二人は強い逆光で照らされるという、処刑を暗示する演出でした。

 シェニエと同じ1794年7月25日には38人が処刑されました。
 処刑はロベスピエールが「テルミドール(熱月)のクーデター」で失脚した7月27日まで行われ、27日も45人が処刑されたそうです。
 シェニエもあと3日生き伸びれば、ギロチンにかからずに済んだのに。
 
 コンシェルジュリーは失脚したロベスピエールが最後の夜を過ごした牢獄でもあり、彼の展示コーナーもありました。
 僕はコンシェルジュリーに行ってからフランス革命が大嫌いになりました。
 大量の血を流しながら何が「パリ祭」やら。