新国立劇場 飯守泰次郎 楽劇《ワルキューレ》
2016年10月12日(水)2:00PM 新国立劇場オペラパレス

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 僕が初めて《ワルキューレ》を見たのは、1998年3月飯守泰次郎さん指揮する名フィルの定期演奏会(ステージオペラ形式)でした。
 この公演に痺れ上がってしまった僕は、飯守さんのワーグナーを追っ掛けることになります。
 そして、僕は今まで自分が聴いた飯守泰次郎さんのベストフォーを、名フィル《ワルキューレ》関西二期会《パルジファル》東京シティ《神々の黄昏》基村昌代さんとの「愛の死」だと思っています。

 特に1998年3月の名フィルとの《ワルキューレ》全曲(ステージオペラ形式)は飯守さんの名フィル常任指揮者としての「さよなら公演」であり、舞台を赤々と染めたフィナーレは忘れることができません。
 最近は飯守さんにも、新国立劇場にも足が遠のいていますが、飯守さんの最後の《ワルキューレ》となるであろう新国立劇場の公演を見逃すわけにはいきません。

 ワーグナー作曲 楽劇《ワルキューレ》
 2016年10月12日(水)2:00PM
 新国立劇場オペラパレス

 指揮:飯守 泰次郎
 演出:ゲッツ・フリードリヒ

 ジークムント:ステファン・グールド
 フンディング:アルベルト・ペーゼンドルファー
 ヴォータン:グリア・グリムスレイ
 ジークリンデ:ジョゼフィーネ・ウェーバー
 ブリュンヒルデ:イレーネ・テオリン
 フリッカ:エレナ・ツィトコーワ
 ゲルヒルデ:佐藤 路子
 オルトリンデ:増田 のり子
 ヴァルトラウテ:増田 弥生
 シュベルトライテ:小野 美咲
 ヘルムヴィーゲ:日比野 幸
 ジークルーネ:松浦 麗
 グリムゲルデ:金子 美香
 ロスヴァイセ:田村 由貴絵

 オーケストラ:東京フィルハーモニー交響楽団

 最初に挙げたいのは、主役歌手のレベルが飛び抜けて高いこと。
 特にジークムント役のステファン・グールド。
 ジークリンデ役のジョゼフィーネ・ウェーバーも立派な声で、大好きな二重唱を堪能させていただきました。

 第2幕のヴォータンとフリッカの場面で仮眠を取る予定でしたが、ヴォータン役のグリア・グリムスレイとフリッカ役のエレナ・ツィトコーワの声の素晴らしさに引き込まれ、寝ている場合ではありません。
 途中から出てきたブリュンヒルデ役のイレーネ・テオリンは、少し弱かったでしょうか。
 しかし、この場面は無くてもいいような気がします。
 ヴォータン役の負担が多く、喉が心配になります。

 第3幕の日本人ワルキューレたちの場面は、歌唱のまとまりも、演技(演出)も気に入りませんでした。
 大国主命を思い出させる服装も変でしたね。
 ストレッチャーに英雄たちが寝かされているのですが、胸板の薄いひ弱な裸で、とても英雄には見えませんでした。
 ここはボディービル・クラブの協力を仰ぐべきだったでしょう。

 演出のゲッツ・フリードリッヒ(1930年~2000年)は、1987年10月17日から始まったベルリン・ドイツ・オペラ《ニーベルングの指環》横浜ツィクルスで、《指環》の世界を教えてくれた恩人です。
 《ジークフリート》第3幕第3部の幕が上がったとき、舞台上から大量の煙がオーケストラピットを乗り越え、会場に拡散したことを懐かしく思い出します。

 今回の演出は、フリードリッヒ3回目の《ニーベルングの指環》で、フィンランド国立歌劇場のプロダクション(1996年~99年)だそうです。
 これは大変気に入りました。

 大きい空間、回り舞台を使った壮大で抽象的な舞台ですが、何よりも《ワルキューレ》のストーリーに従っていることが嬉しい。
 最近は観客の裏をかいて、不愉快にすることが目的のような演出が多いですからね。
 これでこそ飯守ワールドに浸ることが出来るわけです。
 
 オーケストラはトランペットにミスが多く、出てくる度にハラハラしました。
 プロでこれは不味いでしょう。
 コンサートマスターが東海高校出身の近藤薫さんだったのは嬉しかったですね。

 指揮、演出、歌手のすべてが揃ったこの公演は、今まで聴いてきた《ワルキューレ》で、最高の舞台だったような気がします。