《神々の黄昏》 愛知祝祭管弦楽団
2019年8月18日(日)2:00PM 愛知県芸術劇場コンサートホール

「REVIEW19」に戻る  ホームページへ
 
 
 愛知県芸術劇場コンサートホールは愛知芸術文化センターの4階にあります。
 このセンターにある愛知県美術館で行われているのが「あいちトリエンナーレ2019 情の時代」。
 8階展示室で行われたのが「表現の不自由展・その後」と題する展示で、昭和天皇の写真を燃やして踏みつける「焼かれるべき絵」、特攻隊員の寄せ書きを貼り付けた「間抜けな日本人の墓」、韓国慰安婦の像などが展示され、大騒ぎになっているのは、皆さま御存知の通りです。

 芸術監督には、ジャーナリスト/メディア・アクティビストである津田大介氏。
 他人の金(税金)を使い、「表現の自由」の大義名分で、やりたい放題の展示をして、さぞ気分は良かったことでしょう。
 自らの責任を認めず、居直り発言を繰り返す大村知事は、次回の知事選挙でしっぺ返しを食らうことになるでしょう。

 従来のあいちトリエンナーレでは2010年《ホフマン物語》2013年《蝶々夫人》2016年《ポッペアの戴冠》などオペラが上演されていたのですが、今回は無し。
 オペラの代わりがこの大騒ぎかと思うと、心穏やかならざるものがあります。

 愛知祝祭管弦楽団 《神々の黄昏》
 2019年8月18日(日)2:00PM
 愛知県芸術劇場コンサートホール

 指揮:三澤洋史
 演出構成:佐藤美晴

 ジークフリート:大久保亮
 ブリュンヒルデ:基村昌代
 アルベリヒ:大森いちえい
 グンター:初鹿野剛
 ハーゲン:成田眞
 グートルーネ:大須賀園枝
 ヴァルトラウテ:三輪陽子
 ヴォークリンデ・第3のノルン:本田美香
 ヴェルグンデ・第2のノルン:船越亜弥
 フロスヒルデ・第1のノルン:加藤愛

 管弦楽:愛知祝祭管弦楽団
 合 唱:愛知祝祭合唱団

 《ニーベルングの指環》のチクルスを観るのは、1987年10月のベルリン・ドイツ・オペラによる、横浜での公演以来2回目です。
 そして来年のびわ湖ホールが3回目にして最後のチクルスとなるでしょう。

 オーケストラの後ろに歌手が歌う小舞台があり、その後ろのP席に合唱団、その後ろのパープオルガンの前で歌う場面もありました。
 僕の席はいつもの3階最後列なので、パイプオルガンまでは最長距離になります。
 ワーグナーを歌う歌手の負担に思いやりの無い、酷い配置かと思いました。
 前回の《ジークフリート》のように最前列で歌わせてあげれば、歌手の負担も減らせたでしょうに。

 先ずは三澤洋史さん指揮するオーケストラ。
 ジークフリードが旅立ち、「ライン紀行」になると、突然オーケストラのボルテージが上がり、彼らのワーグナーに対する愛情、ワーグナー演奏できる喜びが、舞台から伝わってきます。
 ホルンが音を外すのは想定の範囲内でしょう。

 演出構成の佐藤美晴さんの仕事は立ち位置の指定と照明でしょうか。
 新しいアイディアを感じることは出来ませんでした。
 ブリュンヒルデが住む炎に囲まれた岩山はクリスマスの電飾でしょうか。
 ちょっと、このセンスには付いていけません。

 基村昌代さんは第2幕の後半から調子を上げてきて、「ブリュンヒルデの自己犠牲」は本人も取り憑かれたような絶唱でした。
 御本人のブログには、スタミナ配分を考えると書かれていました。
 カーテンコールでは他を圧する絶大な拍手で登場。
 スタミナを消費されたのでしょう、ふらついておられました。

 前回の《ジークフリート》で声の不調を押して題名役を歌われた片寄純也さんに代わり、今回のジークフリートを歌われたのは大久保亮さん。
 大久保さんはこの地方の脇役専門のリリコテノールだと思っていましたので、この抜擢には驚き心配しました。

 三澤さんのブログによれば、大久保さんを抜擢したのは三澤さんだそうで、
 「いいかい、僕以外とは絶対にワーグナーはやってはいけない」
 「だがもし彼が、誰か他の、垂れ流しのワーグナー演奏をする指揮者の元で歌ったら、一日で彼の声は潰れるだろう」
 「最終的には絶対に君の声は聞こえるようにするから」
 など、三澤さんに育てられたジークフリートと言えるでしょう。

 大久保さんは僕の予想以上に健闘され、大久保さんの歌手人生において、大きなステップアップになった挑戦だったでしょう。
 さすがに最後のソロはバテ気味で、「ハーゲン、早く槍を刺して、ジークフリートを楽にしてやってくれ」と思いました。
 オケの前で歌えばこんなスタミナ消費にはならないのではないでしゃうか?
  
 そのハーゲンを歌った成田眞さんが、また素晴らしかった。
 初めて聴く方で、ハーゲンらしい邪悪な声ではなく、むしろノーブルな声質でしたが、その声は朗々とホールに響き渡りました。
 プログラムの三澤さんの解説に拠れば、「ハーゲン役の成田眞さんとは合計何回稽古をやったか分からない」と書かれており、成田さんも三澤さんに育てられたハーゲンでしょうか。

 もう一人、ヴァルトラウテ役の三輪陽子さんが素晴らしかった。
 出番が多いブリュンヒルデと違い、ヴァルトラウテは短期決戦。
 METライブビューイングで見たヴァルトラウト・マイヤーに退屈した僕ですが、譜面も見ずに歌い続ける三輪陽子さんには惹き付けられました。

 グートルーネの大須賀園枝さんは、2000年3月16日の名古屋芸術大学《カルメン》で笛田博昭さん(声3)のホセに刺し殺されたカルメン(教4)。
 これが笛田博昭さんの初めてのオペラ公演でした。
 大須賀さんは、あれから20年経っても舞台姿の美しい方でした。

 こうしてみると、アルベリヒの大森いちえいさん以外は全て愛知県ゆかりのメンバーで、これは驚くべきことです。

 「ブリュンヒルデの自己犠牲」で基村さんが退場されてからのオーケストラの後奏がたまらなく美しかった。
 天井からまたクリスマスの電飾が降りてきたのは鬱陶しかったけれど、そちらは見ないようにして。

 熱狂的なカーテンコールの最後はお約束の三澤さんと佐藤団長と高橋コンマスのハグ。
 高橋コンマスは名古屋テアトロ管弦楽団のコンマスも務めておられますが、社員900人の大会社の社長さんになられたそうで、大丈夫でしょうか?
 
 アマチュアオーケストラによる《ニーベルングの指環》全曲演奏という日本音楽史に残るであろう、金字塔的な公演を聴かせて頂き、まことに有難うございました。

 英雄とされるジークフリードが、「忘れ薬」一つで記憶を無くしてしまうという、あまりにお馬鹿さんで、こんな巨大なオペラにする必要があるのか?などと考えてしまいますが、来年予定されるびわ湖ホール《神々の黄昏》はミヒャエル・ハンペさんのスペクタルであろう演出が本当に楽しみです。