凄い! ラチャ・アヴァネシヤン ヴァイオリンリサイタル
2011年9月17日(土)6:00PM 宗次ホール

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 チラシの伴奏者がミッシャ・マイスキーの娘、リリー・マイスキーだというので、チケットを買ってみました。
 そうしたら彼女は来日をキャンセルしてしまったんです。

 仕方がないので前半だけでも聴いてみようかと出かけたのですが、凄いヴァイオリニストに出会うことが出来ました。
 なんでも行っておくものですね (^_^) 。

  ラチャ・アヴァネシヤン ヴァイオリンリサイタル
       ”Debut” 初来日
  2011年9月17日(土)6:00PM 宗次ホール
 
 ドビュッシー:美しき夕暮れ、月の光
 フランク:ヴァイオリンソナタ イ長調
 ラフマニノフ:ヴォカリーズ
 アクロン:ヘブライのメロディー
 チャイコフスキー:ワルツ・スケルツォ
 ショーソン:詩曲
 ラヴェル:ツィガーヌ

 プログラムによれば、ラチャ・アヴァネシヤンHrachya Avanesyan は1986年アルメニア生まれ。
 エレバンのチャイコフスキー音楽専科中等学校を卒業。
 10歳の時にアルメニア共和国コンクールのジュニア、シニアの両カテゴリーで第1位を獲得。
 03 年よりブリュッセルの王立音楽院のイーゴリ・オイストラフのクラスで学び、最初の1年の間に5つの国際コンクールで優勝した。
 その後も、06年アンリ・ヴュータン国際コンクール、ユーディ・メニューイン・コンクール、08年カール・ニールセン国際コンクールでそれぞれ1位を獲得し、一躍国際舞台に躍り出た。
 使用楽器は、1717年製ストラディヴァリウス「ピアッティ」。
 現在は、エリザベート王妃音楽大学で、オーギュスタン・デュメイに学んでいる。

 ピアニストのミロシュ・ポポヴィチは身長の高い人で、アヴァネシアンは肩までしかありませんでした。
 ポポヴィチは1985年ベオグラード生まれ。
 ベルギーとセルビア国籍を持つ。
 セルビア・ゼムン市の音楽学校で10歳よりピアノを学び始め、2004年よりエリザベート王妃音楽大学の上級コースで、アブデル・ラーマン・エル=バシャに師事。
 最近は、オーギュスタン・デュメイのサポートを得て、リサイタルや室内楽で共演している。

 ドビュッシーの最初の音を聴いて、僕はこのヴァイオリニストが気に入ってしまいました。
 前にも書いたけれど、 最近読んだ音楽漫画『天にひびき』の第4巻。
 モーツァルトのヴァイオリン協奏曲第5番を練習しながら、「軽やかさか~ こんな感じか?」と言う久住秋央に、曽成ひびきが「弓の圧力さえ下げればいいって問題じゃないと思う」と応える場面がありました。

 アヴァネシアンはどんな弱い音でも弓の圧力を下げていない、音に十分な重みがあるんです。
 テクニックも抜群だし、また一つ一つの音が持つパワーが凄い。
 聴きながら、引退してしまったマキシム・ヴェンゲーロフの再来かと思いました。
 僕としては、最高の誉め言葉のつもりです (^_^) 。

 またプログラムが魅力的です。
 五嶋みどりさんもモーツァルトやクロイツェルではなく、このようなプログラムを聴きたかったものです。

 ピアノのポポヴィチと渾然一体となったフランクのソナタは圧倒的。
 第2楽章の壮大なクライマックスから間を置くことなく、ポポヴィチは瞑想的な第3楽章に突入しました。
 1998年12月6日に聴いた五嶋みどりさんのリサイタルでは、ここで盛大な拍手がわき上がったのでした。

 後半のショーソン『詩曲』は大好きな曲ですが、アヴァネシアンのパワーに対抗するには、ピアノではなくオーケストラが必要かと思いました。
 プログラムには、ショーソンの44歳という自転車事故による若き死のことが書かれていまして、ペール・ラシェーズ墓地で訪ねた彼のお墓を思い指しました。
 そういえば、僕はドビュッシーのお墓も、フランクのお墓も訪ねたのでした。

 プログラム最後の『ツィガーヌ』がまた凄かった。
 この曲は今まで僕にとって我慢する曲でした。
 登場したアヴァネシヤンは譜めくり嬢がまだ歩いているのに、ヴァイオリンを引き始めまてしまいました (@o@)。
 まあ、最初は長いヴァイオリンソロですからね。

 この力の入った最初のソロからフィナーレまで、アヴァネシヤンの熱気に圧倒されて、引きずり回された感じ。
 この驚きと感動を何としても伝えなくてはと、恥ずかしがり屋の僕ですが、「ブラヴォー!」を叫んでしまいました。
 「ブラヴォー!」をした人は二人でした (^_^; 。

 しかし本当に凄い演奏でした。
 僕の人生で、これ以上の『ツィガーヌ』を聴くことはないような気がします。

 サイン会にも率先して並びました。
 アヴァネシアンにはCDが発売されていないので、CD無しでプログラムにサインして貰いました。
 ポポヴィチに「今日はマイスキーの娘を見に来た」と言ったら、アヴァネシアンにも受けました (^_^) 。

 これからアヴァネシアンのコンサートが予定されている地域の皆さまには、決して聴き逃すことがないように注意していただきたいと思い、急いでこの文章を書きました。

 と書いたのですが、アヴァネシヤンの日本デビューコンサートツアーはこの日が最後だったんですね。
 僕はエフゲニー・キーシン、五嶋みどり、マキシム・ヴェンゲーロフの初来日を聴くことが出来て、本物の神童というか奇跡というものが本当に存在するのだと思い知りました。
  そして今回、アヴァネシヤンの初来日を聴くことが出来て、その驚きと感動を再び味わうことが出来たのでした。

 チラシにはイーゴリ・オイストラフの「今日の音楽界において、彼が最も偉大なスターの一人になることは、疑いようがない」という言葉が書かれています。
 僕は、アヴァネシヤンはすでに世界最高のヴァイオリニスト(の一人)であることは疑いようがないと思いますよ。
 

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