《蝶々夫人》 京都芸術劇場春秋座
2013年7月7日(日)2:00PM

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 笛田博昭さんのピンカートンを聴きに、京都芸術劇場春秋座に行ってきました。

 チラシには次のように書かれています。
 良く「オペラは敷居が高い」、「オペラは料金が高い」と言われます。春秋座のオペラはこの二つの「高い」を解消し、幅広い方にオペラを楽しんでいただきたいという思いで企画されています。それには、ポイントを絞ることが必要です。
 (中略)ヨーロッパの大歌劇場引越し公演とは一味違う“1万円未満で感動するオペラ『蝶々夫人』”にご期待ください。

 京都駅から市バス5番「岩倉」行きに乗って、京都の繁華街から平安神宮、銀閣寺と市内観光をしながら、およそ40分で「上終町・京都造形芸大前」に到着しました。
 春秋座は京都造形芸術大学の構内にありまして、市川猿翁(三代目猿之助)が「歌舞伎とオペラが理想的にできる劇場」として建てた劇場だそうです。
 花道があり歌舞伎も上演できる劇場で、スーパー一座が公演していた大須演芸場をひとまわり大きくして新しくした感じでしょうか。
 オケピット使用時の座席は、およそ750席くらいだそうです。

京都造形芸術大学 大須演芸場を思い出しました


 《蝶々夫人》2013年7月7日(日)2:00PM
 京都芸術劇場春秋座

 公演監督:松山郁雄
 指揮:牧村邦彦  演出:井原広樹

 蝶々夫人:江口二美(えぐちつぐみ)
 ピンカート:笛田博昭
 シャープレス:片桐直樹
 スズキ:松浦 麗
 ケイト:味岡真紀子
 ゴロー:冨田裕貴
 ボンゾ:安東玄人
 神官・ヤマドリ:松山いくお
 合唱:ミラマーレ・ヴィルトゥオーゾコーラス
 演奏:ミラマーレ室内管弦楽団

 まず気がつくのがオケピットが小さいこと。
 第1ヴァイオリンなんか1.5プルット(3人)なんですから、無理をしたものだと思いますが、会場が小さいので、それほど音量不足を感じることはありませんでした。

 指揮者の牧村さんは関西のオペラ公演でよく拝見し、「日本で一番多くのオペラを指揮している指揮者なのではないか?」と思われるくらいの大活躍です。
 牧村さんは1904年の初演版を関西で初演されたそうで、今回の公演は初演版と1905年のプレシァ版と、現行版をミックスした牧村版ともいうべきバージョンでした。
 ケートの出番が多かったですね。
 
 今回の舞台美術は、まず障子として使われた紗幕がハーフミラーになっています。
 これは不思議な装置で、ミラー後ろの照明を落とすと、客席の我々がミラーに映ったりします。
 舞台奥にいけばな未生流笹岡家元の笹岡隆甫さんが生けた大きなオブジェがドーンと置かれ、大きな装置はそんなものでしょうか。
 蝶々さん一行はもちろん花道から登場し、和服姿が美しい。

 お目当ての笛田さんは絶好調でした。
 こぢんまりとした劇場に小編成オーケストラですから、無理なく声が飛んできます。
 笛田さんが歌い始めると「ブリリアントだなあ」と思ったりします。

 蝶々さんの江口二美さんは熱演でした。
 愛知県立芸大出身だそうで、笛田さんは名古屋芸術大学出身。
 名古屋出身のコンビを京都で聴くとは、誇らしいことです (^_^) 。
 
 スズキの松浦 麗さんは2008年3月9日に藤原歌劇団の《どろぼうかささぎ》のピッポを聴いたことがあり、「あの少年がおばさんになってしまったなあ」という感慨を持ちました (^_^ゞ。
 しかし、松浦さんの声は低い音までよく響き、現在の日本で最高のスズキかも知れません。

 僕は「ある晴れた日に」は蝶々さんがスズキに向かって歌う曲だと思っているものですから、江口さんが客席に向かって歌い始めたのにはガッカリしました。
 これではスズキもリアクションのしようが無いではありませんか。
 この場面についてはアンソニー・ミンゲラ演出のMETライブビューイングにおけるパトリシア・ラセットとマリア・ジフチャックの演技が一つの理想です。
 何度見ても泣けます。

 松浦さんの役作りは「スズキはとにかく蝶々夫人にお仕えして、ずっと支えていきたいなと思っております」というもの。
 ジフチャックは「単なる奉公人ではなく、3年を共にした仲間意識を持った役作り」と言っていました。
 もちろん演出家の意図も入っているのですが、松浦さんのスズキはまた聴かせていただきたいものです。

 最後に蝶々さんがスズキに「お前もお行き」と言う場面、2012年11月25日に八王子で聴いた西本智実さんはティンパニーを炸裂させて蝶々さんの死の決意を強調していましたが、今日のオーケストラにはティンパニーがありませんでした (^_^; 。

 あとは子供でしょうか。
 子供は必ず「ママー!」と叫びながら出てきます。
 興味深かったのは最後の場面で、蝶々さんは「ママー!」と飛び出してきた子供を抱きしめ、やがて押しやります。
 子供は何歩か歩いては蝶々さんを見返ります。
 これが繰り返され、そして「ママー!」と叫びながら、また蝶々さんに抱きつきます。
 その子供を蝶々さんは一度は抱きしめながらも突き飛ばし、子供が「ビエ~~~ン」と走り去ってから短刀で自刃するわけです。
 これはわざとらしい演技プランなんですが、ちょっとウルッとしました。
 しかし、実年齢2歳の子供にこんな事はできませんね。

 ヤマドリの松山いくおさんは公演監督の松山郁雄さんなんですが、田舎のご隠居さん風で、蝶々さんに救いの手を差し伸べるパワーが足りなかったような気がしました。

 終演後のロビーにキャストが現れ、笛田さんの写真を撮らせていただきました。