ウィーンミュージカル《エリザベート》(3)
◇ 何も難しいことはない/すべての質問は終わった
 
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◇シーン5 天と地の間で

 次の場面はスタジオ録音CDには無い。
 場面は『 Zwischen Himmel und Erde 』。 天と地の間か?

 舞台は映画《第三の男》で有名なプラーター公園の観覧車。
 エリザベートとフランツ・ヨーゼフが会ったのは1853年、観覧車が出来たのは1897年なので、この場面は史実とは異なり、イメージの世界だ。

 実際には、彼らは婚約後6頭立ての馬車でハルシュタットに遠出した。
 馬車の騎手はグリュン伯爵だった。

 このデートの場面を描いたシェーンブルン宮殿の馬車博物館にある有名な画では、グリュン伯爵は若かったが、ミュージカルではおじいさん (^_^;。
 
ハルシュタット湖 馬車博物館にある有名な画
 
 
 僕はあとから気が付いたんだけれど、この演出のコンセプトは遊園地だね。
 観覧車があるから、プラーター公園の遊園地かも知れない。

 ということで時間は飛ぶんですが、1998年6月24日(水)、僕はベルリンコミッシュオパー名古屋公演《こうもり》の終演後、楽屋出口でクプファー氏を直撃しました (^_^) 。

 《エリザベート》のプログラムの観覧車の場面を指して『プラーター?』と尋ねたところ、答えは『YES!』。
 次に回転木馬の場面を指して『プラーター?』と尋ねたところ『NO!』。

 ということで、演出家の意図として、必ずしもプラーター遊園地のみに限定はしていないのだということが分かりました。
 もちろん、プログラムにはサインしてもらいましたよ (^_^) 。

 『 Nichts ist Schwer / 何も難しいことはない』

 さて舞台に戻って‥‥この観覧車で、若い恋人たちが寄り添って歌うのは、『夜のボート』と同じメロディー。
 題名から考えるに、宮廷での生活は大変だけれど、僕が付いているから大丈夫、というような歌じゃないだろうか?

 第2幕の『夜のボート』は、心が通うことが無くなったフランツ・ヨーゼフとエリザベートによって歌われる歌だから、この若い恋人たちに訪れる過酷な未来を思い、しみじみとこの場面を見てしまった。
 史実とは異なっても、上下に動く巨大な観覧車は印象的。

◇シーン6 ウィーンのアウグスティナー教会

 このレビューの1996年にはアウグスティナー教会は工事中で、内部を見ることは出来なかった。
 僕がやっとこの教会に入ることが出来たのは1999年12月30日のことだった。

 アウグスティナー教会はハプスブルグ家代々の皇帝の心臓が収蔵されていることでも知られている。
 ハプスブルグ家の皇帝は死亡すると、遺体はカイザーグルフト、内臓はシュテファン寺院のカタコンベ、そして心臓はアウグスティナー教会に収められた。

 で、受付のお姉さんに聞いてみたところ、教会正面右側のドアから入った聖ゲオルグ礼拝堂に皇帝たちの心臓は収められているそうだ。
 『僕はカイザーグルフトもシュテファン寺院のカタコンベにも行ったので、今度は心臓が見たい』と言ってみたが、『みんなそう言うのよね』と笑われてしまった (^_^;。
 見学には予約が必要とのことであった。

 では、エリザベートの心臓はここにあるのか?

 シュテファン寺院のガイドの説明は以下の通り。
 このように残酷な習慣は、フランツ・ヨーゼフによって中止され、このような処理を受けたのは、彼の祖父が最後である。
 だから、エリザベートもフランツ・ヨーゼフもルドルフも WHOLE BODY IN ONE PIECE(← この言葉が気に入った (^_^) )で、カプツィーナー教会のカイザーグルフトに収められている。

 しかし、ジュネーブで刺殺されたエリザベートは、スイスの法律に従い解剖されている。
 解剖で取り出された彼女の臓器はどこにあるのか?
 解明したい疑問点は多いが、言葉のハンディキャップが‥‥ (^_^; 。

 翌12月31日(ミレニアム・イブだ)の5時から、アウグスティナー教会のミサに参加してみた。
 縦長の教会内部は燭台の照明に明るく照らされている。
 この光り輝く燭台と鳴り響くオルガンの下で、エリザベートはラウシャー枢機卿による夫婦誓いの問いかけに『はい』と小さい声で自信無く答えたのだ。

 『すべての質問は終わった』

 結婚式が行われたのは1854年4月24日。
 ルケーニが『夜の7時半、結婚式には奇妙な時間』と歌うように、なぜこんな遅い時間の結婚式になったかは不明。
 この結婚式は正式な絵も残されていない、謎めいた結婚式だったそうだ。

 『すべての質問は終わった』とは『もうどうこう言っている場合ではない。もう結婚するしかない』という意味なんだそうだ。
 コーラスの、カリカチュアライズされたカックンカックンした動きが面白い。
 新郎新婦も、数歩動く毎に、のけぞっている。

 エリーザベトの『Ya!』という言葉は、スタジオ録音CDの卜書きと違ってためらい無く発せられるが、不気味なエコーがかかる。
 舞台奥には巨大な鐘が見える。
 そこには、このハプスブルグの死の鐘を鳴らすトートの姿が‥‥。
 
 
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