《田舎騎士道》&《道化師》
 2023年3月5日(日)2:00PM 愛知県芸術劇場 大ホール

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 《田舎騎士道》&《道化師》
 2023年3月5日(日)2:00PM
 愛知県芸術劇場 大ホール

 指揮:アッシャー・フィッシュ
 演出:上田久美子

 《田舎騎士道(カヴァレリア・ルスティカーナ)》
 トゥリッドゥ [護男]:アントネッロ・パロンビ&柳本雅寛*
 サントゥッツァ[聖子]:テレサ・ロマーノ&三東瑠璃*
 ローラ[葉子]:鳥木弥生&髙原伸子*
 アルフィオ[日野]:三戸大久&宮河愛一郎*
 ルチア[光江]:森山京子&ケイタケイ*

 《道化師》
 カニオ[加美男]:アントネッロ・パロンビ&三井聡*
 ネッダ[寧々]:柴田紗貴子&蘭乃はな*
 トニオ[富男]:清水勇磨&小浦一優(芋洗坂係長)*
 ペッペ[ペーペー]:中井亮一&村岡友憲*
 シルヴィオ[知男]:高橋洋介&森川次朗*
 合 唱:愛知県芸術劇場合唱団
 児童合唱:名古屋少年少女合唱団
 管弦楽:中部フィルハーモニー交響楽団

 僕は元々《カヴァレリア・ルスティカーナ》が大好きなんですが、アッシャー・フィッシュの指揮が始まった瞬間に「何という美しい曲だろう」と改めて聞き惚れてしまいました。
 2月の藤原歌劇団《トスカ》もこの指揮者で聴きたかったと、痛切に思いました。
 僕はこの指揮者を1999年のウィーン・フォルクスオパー《チャルダッシュ侯爵夫人》、2010年のあいちトリエンナーレ《ホフマン物語》と聴いています。

 中部フィルハーモニー交響楽団がオケピットに入るのは珍しい、というか、初めてでしょうか?
 大いに心配したのですが、大変立派な演奏でした。
 良い指揮者に当たって、良い演奏が導き出されるのですね。

 今回の公演のセールスポイントは宝塚出身の演出家、上田久美子さんの演出でしょう。
 各役を歌手とダンサーが担当するという。
 僕は2000年5月6日にヘッセン州立劇場(ヴィースバーデン)の《さまよえるオランダ人》で二人のゼンタを見ていますから、昔から使われている演出技法でしょう。

 そして文楽の形式を取り入れているという。
 この手の舞台だと思い出すのは松尾葉子さんが指揮した2000年・名古屋能楽堂の「能形式による《ドン・ジョヴァンニ》」、2003年の「文楽様式による《異説・カルメン情話》」
 僕は大変感心してニフティのオペラの部屋にレポートしたものです。
 この公演は東京でも上演されましたが、東京の方が観客が多かったそうです。
 後日松尾さんとお話ししたときに「不思議なことに東京の方がお客さんが多かった」と言っておられましたが、僕のレポートの効果があったと自負しております。

 本日の舞台では衣装や体型が違うため、どの二人がセットになっているの分かかりにくかった。
 この演出は効果的な部分もありましたが、歌手の動きが少ない部分ではオペラが付け足しのように見えてしまう違和感もありました。
 焦点が定まらないというのかな。
 しかし、演出家の熱意は大いに感じることができました。
 三東瑠璃さん[聖子]のジャンプ能力は凄かったですね。

 もう一つ、上田久美子さんの情熱を感じられるのが関西弁の字幕。
 普通の字幕は舞台奥に投影されますが、関西弁の字幕は舞台上の壁に大きく投影されます。
 関西弁の字幕に意味があるのやら無いのやら。
 面白かったですけれどもね。
 文楽や宝塚など、上田さんのルーツに関西があるのでしょうか。

 歌手はパロンビが良かったですね。
 特に第2幕のアリア「母さん、おの酒は強いね」。
 サントゥッツァの「ママも知るとおり」は今ひとつでした。
 大好きなトゥリッドゥとサントゥッツァの二重唱はダンサーの動きが気になって、記憶に残っていません。
 アルフィオは迫力がありました。

 《カヴァレリア・ルスティカーナ》は間奏曲が有名です。
 僕はこの曲を山本直純先生の指揮で演奏したことがあります。
 この時は大河ドラマ『武田信玄』(1988年)なども演奏したのですが、練習時間の多くは間奏曲に当てられました。
 間奏曲は技術的には簡単な曲ですが、山本先生が少しずつ手を加えていくと、曲がどんどん深みを増していくのです。
 この人は凄い指揮者なんだと認識しました。

 さて、トゥリッドゥの決闘は舞台中央で行われました。
 フィッシュは最後のコントラバスをクレッシェンドさせて終わりました。
 これは拍手を引き出すのに有効でしたね。

 《道化師》の『プロローグ』は2007年10月6日に関西歌劇団の田中 勉さんのトニオに仰天して腰を抜かしてから、大好きです。
 その後の本編はあまり好みではなかったのですが、本日のネッダ柴田紗貴子さんが良かった。
 柴田さんは徳川家康の故郷、岡崎市の出身。
 国立音楽大学、大学院・修了。イギリスへ留学。

 パロンビの『衣装を着けろ』は絶品でした。
 トニオ、シルヴィオも好演。
 ネッダとシルヴィオの二重唱が、あれほど美しい曲だとは認識していませんでした。
 中井亮一さんのペッペは2008年3月22日《道化師》からの持ち役ですね。

 フィナーレでは逃げるネッダをカニオは上手階段で刺し殺します。
 シルヴィオは下手からオケピッの前の通路を横切り、ネッダに駆け寄り、カニオに1列目の座席で刺し殺されます。
 カニオは上手階段ネッダの死体を担ぎ上げ、通路を指揮者の後ろまで来たところで終わりましたが、これは意図不明でした。

 カーテンコールには演出の上田さんも登場し、盛大な拍手を受けていました。
 《田舎騎士道》という題名は良いのではないでしょうか。
 『カヴァレリア・ルスティカーナ』は日本語ではないものね。
 アッシャー・フィッシュが作り出す本日の演奏なら、ダンサー無しでも(無しの方が?)十分な感動を与えられたと思います。