東京二期会  《ナクソス島のアリアドネ》
2008年6月29日(日) 2:00PM 東京文化会館

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 何度も同じ文章の使い回しで申し訳ないんですが、僕が最初に《ナクソス島のアリアドネ》を見たのは1980年8月19日、ところはザルツブルグ音楽祭小ホール。

 別にこのオペラに興味があったわけではなく、たまたまツアーの日程がぶつかってしまっただけなんです。
 ところが、これは我が人生最高のオペラ体験となりました。

 指揮はカール・ベームで、この年がベームにとって最後のザルツブルク音楽祭となりました。

 そしてツェルビネッタは当時売り出し中のエディタ・グルベローヴァで、マスコミでは《ナクソス島のツェルビネッタ》と言われていたそうです。

 しかし、僕が何より衝撃を受けたのはディーター・ドルンの演出でした。

 このオペラ《ナクソソ島のアリアドネ》はウィーンの富豪の館でオペラ《ナクソス島のアリアドネ》を上演するというオペラで(なんのこっちゃ (^_^;?)、その上演までのドタバタを扱った『序幕』が付いています。
 ドルンの演出、『序幕』は広間となりの小部屋。
 で、ボーイが出入りする度に開くドアから広間でワルツを踊る人たちが見える。

 休憩後の『オペラ』になるとシューボックススタイルで豪華な内装の小ホールが、舞台まで含め一つの部屋になってしまっている。
 そして『序幕』でドアのすき間から見えたワルツを踊っていた人々は、『オペラ』では会場に座る我々なんですから、このアイディアには驚いてしまいます。
 で、役者は奥の扉(そこに小部屋があるんですから)から出入りする。
 何書いてるか分かりますか (^_^;?

 これ以来ディーター・ドルンは僕にとって神様だったんですが、08年4月6日のMETライブビューイング 《トリスタンとイゾルデ》で地面に落ちてしまいました (^_^; 。

 日本では、98年の関西二期会05年の関西フィル06年の名古屋尾張地域市民オペラ振興会(その1)、(その2)07年の関西二期会公演を見ています。

 関西二期会の公演は2回とも演出の松本重孝さんが第二幕をグランドオペラにしてしまうという過ちを犯しており(個人的意見です)、あまり評価することができません。

 05年の関西フィルは飯守泰次郎先生の指揮で、ホールオペラ形式。
 演出家の名前は書かれていませんでしたが、この室内オペラにふさわしい上演かと思いました。

 06年の名古屋尾張地域市民オペラ振興会の公演は岩田達司さんの演出で、名古屋のお金持ちが顧客を会場である名古屋芸術創造センターに招いてのオペラ公演という設定で、シュトラウスやホフマンスタールの意図に合わせた演出だったでしょうか。

 そして本日の公演です。
 演出の鵜山仁さんは1998年東京室内歌劇場の《ベニスに死す》以来注目しておりました。
 しかし、2002年の《天国と地獄》(名古屋アートピアホール)は失敗作。

 2003年東京室内歌劇場《欲望という名の電車》にはまた感心したのですが、2006年の二期会《ラ・ボエーム》のありきたりの舞台にはがっかりしました。
 しかし、《ナクソス島のアリアドネ》のような室内オペラは鵜山さんに合っているはずだと期待して出かけました。

   東京二期会オペラ劇場《ナクソス島のアリアドネ》
   2008年6月29日(日)2:00PM 東京文化会館

    指揮:ラルフ・ワイケルト  演出:鵜山 仁

 執事長:田辺とおる   音楽教師:初鹿野 剛
 作曲家:小林由佳
 テノール歌手/バッカス:青蜻f晴
 士 官:高田正人    舞踏教師:小原啓楼
 かつら師:三戸大久  召使い:石川直人
 ツェルビネッタ:安井陽子
 プリマドンナ/アリアドネ:横山恵子
 ハルレキン:萩原 潤   スカラムッチョ:森田有生
 トゥルファルディン:斉木健詞  ブリゲッラ:児玉和弘
 ナヤーデ:吉村美樹    ドゥリヤーデ:磯地美樹
 エコー:谷原めぐみ

 このオペラはウィーンの富豪の邸宅の広間で演じられるオペラ、という前提があります。
 関西二期会公演の松本重孝さんのようにこの前提を忘れてしまったような演出家もいました。

 第一幕はオペラの舞台裏なんですが、鵜山さんの演出ではオペラの準備が進められる舞台上の出来事となっています。
 これでも特に支障はないでしょう。

 オケピットの上に橋が架けられ、客席から人が出入りしますが、なぜこんなことをするのか分かりません。
 また舞台には電球が並べられピカピカしますが、これもまったく不必要でしょう。
 それはそれとして、鵜山さんの演出は期待どおり、込み入った人物の動きを手際よく纏めていたと思います。

 第一幕の主人公である作曲家の小林由香さんが、豊かな声量で抜群でした。
 第一幕の後に第二幕に出ない人のためのカーテンコールがありまして、小林さんに大きな拍手がありました。

 ラルフ・ワイケルトの指揮は、関西フィルの飯守泰次郎さんと較べると柔らかさはないものの、シュトラウスの細かい楽器の動きが聴き取りやすい音楽で、良かったですね。

 第二幕のオペラ《ナクソス島のアリアドネ》は周囲を幕で囲まれた簡素なセットで上演されます。
 ほっと一安心しました (^_^; 。
 
 アリアドネの横山恵子さんはプリマドンナらしい立派な歌唱でした。
 この役では関西二期会の雑賀美可さんも良かったですね。

 しかし、どうしてもツェルビネッタが儲け役。
 安井陽子さんは歌唱も演技も素晴らしく、新しいスターの華麗なるデビューでしょうか。
 ザルツブルクでグルベローヴァを聴いたとき、この役を日本人が歌えるようになるとは夢にも思いませんでした。

 テノール役はヘルデンテノールですから、青蜻f晴さんには荷が重かったでしょう。
 名古屋公演の笛田博昭さんをお貸ししたかった。

 4人の道化師たちは歌も演技も最高レベル。
 3人のニンフは声量もアンサンブルも感心しませんでした。
 3人のニンフは関西フィル定期演奏会のメンバーが、カラフルなドレスも、もちろん音楽的にも良かったですね。

 フィナーレに近くなると第一幕の登場人物たちが舞台袖に置かれたベンチから、我々と一緒に舞台を眺めます。
 館の広間での上演という前提にふさわしいものでしたが、その意味で、最後に周囲から大きい雲(?)が現れたのは広間にはふさわしくありませんでした。
 
 
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